第2話:どうして文芸部に①
「そういえば、斉賀くんってどうして文芸部に入ったの? 前から思ってたけど、まったくイメージないわ」
「それは俺が文学を読まないアホに見えるってことか?」
「そこまでは言ってないけれど、まあ当たらずも遠からずってとこね」
「毎度正直だな。もうちょっとオブラートというものを」
「あら、漫画しか読まなそうなバカって言った方がいいかしら」
「十分包んでくれてたんですねありがとうございます」
場所は例によって学校の図書館、放課後。昨日の今日で怒られるのは勘弁なのか、それとも昨日の羞恥がこたえたのか。冬華はちゃんとというべきか、椅子に座っている。依然距離が近いのは変わっていないが。
当然図書館なので、周囲には読書をしている人、勉強している人などなど。時折冬華の方を横目で見てくる男子生徒もちらほら見られる。きつい性格とは裏腹に、容姿は抜群にいいので、知っての通り彼女はそこそこ、いやかなりモテる。男子からしてみれば注目の的だ。
もちろん、そんな注目の的とやたら距離が近い、冴えない男は誰だと、恨みのこもった視線を夏輝に向ける者も一定数図書館利用者の中に存在している。夏輝もいい気はしないため、近づかれないよう頻繁に場所を変えたことがあったのだが、どういうわけか必ず見つけだしてくるのだ、この性悪女は。
『おおかた、いつも通り俺のことを揶揄って楽しんでいるんだろう』
と、被害者意識の強い夏輝は考える。捻くれているというべきか。年頃の男子ならば、容姿の整っている同年代の女子にベタベタされればコロっと落ちそうなものだが。
思うことは多々ありつつも、夏輝は冬華の質問に答えた。
「昔から文学好きだったし、せっかくの高校生活なのに何にも入らないのもなって思って」
嘘である。
中学の頃からライトノベルを読み漁っていたものの、純文学を読む機会は国語の教科書くらいしかなかった。しかし......
『ライトノベル好きだし、運動部嫌だったから文芸部』
などと正直に伝えてしまえば
『あら、いまだにお子様趣味を引きずってるのね。やっぱりジャパンのティーンは面白いわ、ふふっ』
などと鼻で笑われること必至である。
別にいいだろライトノベル! 筆者は大学生になってもラノベ読みまくってるぞ!
「文学読むのは解釈違いだったわ。てっきり漫画やライトノベルばかり読んでるのかと」
「ぐっ! ま、まあな」
ここで的確な解釈がクリティカルヒット。夏輝の精神と良心にダメージ。別にライトノベルを読んでることは何とも感じてなさそうなのが、ダメージ倍率を上げている。
夏輝は雰囲気を誤魔化すために咳払いを一つ。真紅の瞳を見つめ返し、冬華に問いを返す。
「そういう冬華は何の部活にも入ってないよな。運動部から引く手数多だったって聞いたけど」
「まあね。結構いろんな部活から、うち来ませんかって言われたけど」
まるで当然、と言わんばかりに、銀髪を手で靡かせる。夏輝はジト目を向けながら、言外に聞けと言われた気がする質問で応じる。
「入らなかったのか?」
「中学校の時にね、私が入った部活に人が殺到したことがあってね。私自身わいわいやりたい感じじゃないし、結局入らないことにしたの」
そう言いながら、冬華はまるで物憂げにため息をつく。
『ほら、私はこんなにも人気なのよ? そんな私と放課後こうして一緒にいれるなんて光栄でしょう?』
『何だこいつマウントのつもりか? 舐めやがって......』
反応をちらちら見る冬華と、何とも言えない怒りに震える夏輝。自分の気持ちを落ち着けるために深呼吸を一つ。髪を指で巻きながら、冬華は問いを重ねる。
「そう言えば、文芸部には誘われた記憶がないわ。あまり精力的に活動してないの?」
「自分が勧誘されなかったからってそう判断するのはどうなんだ......まあ精力的には活動してないな。部員も俺含めて三人だけだし。活動報告に書くための刊行物出してるだけだし」
「三人!? ずいぶん少ないのね。それに活動もすごい緩いし......ふーん」
冬華は妙に意味深な吐息を漏らした。
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