第4話 学校とドッペル

 学校に行かないことによって、自由な時間を手に入れた私。


 アプリで漫画を一気読みしようか。

 充電が切れそうになるくらいゲームをしようか。


 なんて、昨日までは色々考えていたのだが。

 結局娯楽の類など一切せず、普段夕方に行っている家事を先取りしてしまった。


 ちゃんと授業についていけているだろうか。

 ちゃんと友人と話せているだろうか。

 と、小雪のことが気になって何も手につかなかったのだ。


 洗濯を終わらせ、掃除もいつもより丁寧に隅々まで行った。

 それでも時間は有り余っていて、リビングのソファーに寝転がり、無意味に天井を眺めて過ごした。

 その間ももやもやと学校のことばかり考えてしまい、何もしていないのにどっと疲れた気がする。


 ガチャ、と玄関の方から鍵を回す音が聞こえて、慌てて身体を起こす。

 急いで駆け付けると、開いたドアから小雪が入って来たところだった。


「おかえり! 大丈夫だった!?」


 鍵を閉めた小雪が「ただいま」と返してくれる。

 その様子は朝と変わらないように見えるが、学校はどうだったのだろうか。


「大丈夫だった?」


「フリは完璧だと思う。何があったか、報告するね」


 そう言った小雪は、スラスラと話し始める。


「午前7時53分、交差点で里香と合流。始めに里香がおはようと言い、おはようと返した。それから会話が――」


「あー、そんなに細かくなくていいよ! ざっと簡単に、概要だけ!」


 完全再現しそうな勢いの小雪を慌てて止める。

 あったこを全部聞いていたら、夜になってしまいそうだ。


「とりあえずリビング行こ。立ち話も疲れるし」


「そっか。ごめん」


「いいよ。あ、制服皺になるから着替えて」


 半強制的に話を断ち切って、一旦自分の部屋に戻る。

 制服姿の小雪を部屋着に着替えさせ、2人でリビングのソファに座った。


「じゃあ、まず朝里香と合流して、特に問題もなく学校に行けたよ。話の内容は、大体里香の彼氏の話だった」


「うん、いつも通りだね」


 学校についたら、いつもの4人でカフェの新作の話。

 授業は時間割通りで、他の休み時間も似た感じ。

 昼食はダイエット中だと言って誤魔化した。

 放課後も4人で明日の小テストの話をしてから里香と帰宅。


 と、雪は簡単に1日の出来事を教えてくれた。

 昼食以外はどれもいつも通りで、小雪曰く気づかれた様子もないらしい。


「……小雪、すごいね……!」


 小雪は私の身代わりのとしての役目を、完璧にこなしたようだ。


「ドッペルロボットは、そういうものだよ」


 小雪は喜んだりするわけでもなく、当然のように答える。


「言われてみれば……そうだね」


 思えば私の心配事はどれも、成り代わりがバレて怒られることについてではなく、単純に小雪が上手くやれているかどうかだった。

 もしかすると私は、いつの間にか小雪を一卵性の双子か何かのように見ていたのかもしれない。


「次は何をしたらいい? 家事?」


「あぁー、夕飯作り以外全部やっちゃったんだよね……。どうしようか」


 正直に言えば暫くは何もないのだが、小雪は何か仕事を与えられたいらしい。

 どうしようか、と、小雪を待たせないよう頭を回転させる。

 末、パチッと頭の中に“やりたいこと”が駆けた。


「やることってさ、私の代わりじゃなくてもいい?」


「……どういうこと?」


 私の問いかけに、頭が不思議そうに傾いた。

 私の代わりにやってほしいことは、今はない。

 けれどそうでなくてもいいのなら――小雪やってみたいことがある。


「一緒にゲームしよう!」


「……ゲーム? 私も?」


 不思議そうな小雪の了承も得ずに、テレビ横のドックにゲーム機をセットする。

 電源を入れ、コントローラーを片方小雪に渡した。


「はい、小雪は2pね」


「一緒にするの?」


「うん! 2人でやった方が楽しいの」


 小雪はまだ少し不思議そうだったが、コントローラーを受け取ってくれた。


 私がつけたのは、そこそこ有名なパズルゲーム。

 1人でやるより対戦した方が楽しいのだが、生憎里香達はあまりゲームが好きではなかった。


「久しぶりに人と一緒にできて、嬉しい!」


 小雪は私の真似が得意なだけあって、すぐに操作方法を覚えた。

 流石ロボットと言うべきか、小雪の操作には無駄もミスもなく全然勝てなかった。


 ここで1つ、驚いたことがある。

 続けていくうちに、まるで私の真似をするように、小雪の実力が私に寄ったのだ。

 負け続きだったのが、少しずつ私も勝てるようになっていき……対戦回数が2桁になるころには、勝率はほぼ5割ずつになっていた。


 一緒に遊びたいと思った辺り、私はやはり小雪を双子の妹か友人のように見ているのかもしれない。

 しかし小雪は、なんでもない遊びにさえもドッペルロボットとしての能力を発揮していて――埋まらない溝を、覗いてしまったような気がした。 

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