忘れていたこと

@fua0717

俺の後輩は、先輩だ。

俺は真野和馬(しんの かずま)警察官になって12年のベテランだ。新卒で警察署にきた頃は今より活き活きとしていたと思う。でも最近は違う。いくら違反を取り締まっても、街の見回りをしても、殺人犯を捕まえても、事件も事故もひっきりなしにやってくる。そんな日々に疲れていた。どうして犯罪は減らない。仕事はいつまで経っても山積みになっていくばかり。未来に絶望していた時、新卒の実里咲希(みのり さき)が配属されてきた。

「この街の平和を作るために一生懸命頑張ります!」

そう元気な一声を署内に響かせて。俺は実里の教育担当になった。仕事を覚えることが早く、その上気もきく。そんな実里が俺のようになるのは見たく無いと思った。事件の連絡が入ると誰よりもはやく準備し、朝一番に出勤して、一番遅く退勤する。俺は気になって先輩として恥ずかしいことを聞いた。

「お前はどうしてそんなに頑張れるんだ?

俺たちがどれだけ犯罪を解決しても次から次に事件が舞い込んでくる。お前のそのやる気はいったいどこからきているんだ?」

実里は少し不思議そうな顔をした後

「先輩。私、警察官って犯罪を解決する仕事じゃなくて、困っている人を助ける仕事だと思ってます。事件を解決したら、たくさんの人がありがとうって言ってくれるんです。困っている人が居る限り私はその人の助けになりたいです。」

その言葉には一つの曇りもなかった。

「なんだよお前。俺より先輩らしいこと言ってんじゃねーよ。」

その一言はあの頃の活き活きとした俺の声だった。

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