第11話 陰陽師に会いました

陰陽師の家系に生まれて早23年。幼少のころから普通とは違う生活や教育機関で過ごし世間とは少しずれた常識の中で生きてきた。


高校卒業とともに一人前の陰陽師として日本中を飛び回り悪鬼羅刹、魑魅魍魎と戦ってきたのだが最近どうしてもやる気が出ない。


今やっていることが一族の自分の使命だとわかっているのだが、外の世界に出るとどうしてもいろいろ考えてしまう。


楽しそうにご飯を食べたり遊んだりと自分の体験したことのないことが外の世界には広がっているのだ。今の自分がどれだけ世界のことを知らないのかひどく痛感する毎日、そしてそんな生活に憧れる自分が生まれてしまった。


「はー。」


「先輩またため息すっか?そんなにため息ばっかりついてたら幸せが無くなっちゃいますよ?」


「幸せなんてもうとっくにねぇよ。あー俺も遊びに生きてーなー。ゲームやってみたいしうまいもんだって食いたい。いつもいつも決められた食堂で代り映えのしない食事にはあきた!お前はどうなんだ?」


「正直自分も自由に過ごしたいですけど、外の世界の常識なんてないし陰陽師辞めたら僕ら生きていけないすっよ。」


「そうなんだよな、やめるイコール人生の終わりだからたちが悪いよな。自分でもわかってるけどよ、欲しいものが目の前にあるのにどうしても手の届かないなんて欲が強くなっちまうだろ。」


「何言ってもしょうがないすっよ。引退まで仕事一筋で頑張るしかないんすからさっさと行きますよ。」


「わかってるよ。」


今日の仕事は自分たちの持ち場の見回りだ、3か月ごとに場所は変わるがその間広大なエリアを何日もかけて何度も見回るのだ。


場所が変わるのは目線を変えるためで前の人が気づかなかった異変がわかるようにする対策と経験を積むためであり、同じ場所でやり続けても怠惰になり手を抜くかもしれないし、場所が違えば出てくる相手の特徴も変わるためどんな状況・相手でも対応できるようにするためである。


「なんかへんっすね。この辺だけやけに悪霊が少ないっす。」


「やべえ個体でも発生したか?あんまそんな気配は感じないし、どっちかって言うとこのあたり一帯いい気で満ちてる気がするんだが。ほかっといても別にいいんじゃねえか?」


「いい気で満ちてるって言ってもそんなことが俺たちがいない間に起きてるってことは異変じゃないっすか。一応調べないと報告できないっすよ。後でばれて怒られるなんて僕は嫌っすからちゃんとやるっすよ。」



「後輩のくせに先輩に指示を出すとは生意気だな。」


「最近の先輩の堕落具合は目に余りますからね。昔のエリート思考はどこに置いてきちゃったんすか。かっこよかったんっすけどね、テキパキと指示を出してミスは許さないそんな後輩が憧れる先輩だったんですけどね。」


「そんなもん山の中に落っことしてきた。」


「とにかく調べますよ。」


二人で山の中を駆け回りようやく異変の中心地であろうと思われる一軒の家にたどり着いた。


「ここ見たいっすけど、なんか入っちゃいけないって本能が叫んでるっす。」


「あーこの感じは神仏がいるな。勝手に入るのはまずいぞー。」


「どうすればいいんすか?」


「家なんだからインターホン押せばいいだろ。」


先輩と呼ばれる男性は家の前まで行くとインターホンをポチっと押した。


どたばたと音がした後玄関が開き中から少女が出てきた。


「はーいなのじゃ!」


その姿を見た瞬間に後輩はこちらを見て固まった。土地神か・・・いやそれだけじゃねえな。ほかにもいそうだな。


「おぬしたち何をしに来たんじゃ?」


「土地神様とお見受けしますがよろしいでしょうか。」


「うむ、ここを守護する羽張じゃ。」


「陰陽師の朝露と申します。このあたりが浄化されていたので原因を探っていたらここにたどり着きましたので確認をさせていただこうとお呼びしました。何かご存じでしょうか?」


「知っておるぞ。長谷川が井戸水をかけた跡じゃな。」


「井戸水ですか?それに長谷川とは。」


「長谷川はこの家の持ち主でお前たちのような陰陽師ではなくただの人間じゃ。井戸水は水神が用意した水じゃな。」


水神様までいるのか。ということは加護の付いた水が簡単に手が入るということか!


「その水をいただくことはできますか?」


「長谷川が良いと言えばいいじゃろ。勝手に持っていくのは許さんがの。」


「長谷川さんは今どこにいらっしゃいますか?」


「ちょっと出てくると言ってまだ帰ってきてないのじゃ。時間があるなら中で待つといいのじゃ。」


「ではお邪魔させていただきます。おい、いつまで固まってるんだ行くぞ。」


「はひ。」


ロボットのようにカクカク動く後輩を連れてリビングに上がり家主を待つことにする。


30分ほどたったか会話のない神聖な空間に緊張して出してもらったお茶も飲み干し

モジモジとしていたところで玄関の開く音が聞こえてきた。


「ただいま~、ごめん遅くなった。すぐにお昼の準備するから待っててくれ。」


「長谷川~客なのじゃ!」


「お客さん?はいはいどなたですか?ってほんとに誰!」


「陰陽師の朝露と申します。こちらは後輩の華月と言います。」


「はー陰陽師ですか・・・、一般人の長谷川と言います。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る