第7話 対策

あれから数日、家から見える黒い影の数は日に日に多くなってきていた。時折暇を見ては水をかけて消してやるのだが、どこぞの某スライムのように仲間を呼んできやがる。


「また行くのか?」


「当たり前だ!見ていて気分が悪くなるし少しでも減らさないと家の周りが真っ黒になっちまう。」


俺はそう言って井戸へ行き水を汲んで塀の元へと移動すると柄杓でザバザバとかけていく。


ギャーという声とともにどんどんと消えていくのだが後ろからそろりそろりと後続が出てきてキリがない。


水を撒くのではなく水たまりのようにして寄せ付けなければいいと思うかもしれないが、あいつらはそれを避けるように移動して近寄ってくるのだ。少しでも隙間があればそこから一斉に入ってくるし頭が働く奴は飛び越えたり体を変形させて越えてくる。


全く嫌になる。どうしてこんなことに。


そんな悲観的なことを考えながら水をまいているとピンポーンとインターホンの音が聞こえてきた。その場にバケツを置いて玄関まで移動すると神社の宮司さんが来ていた。


「あっ!宮司さん。来てくれたんですね。」


「遅くなってすみません。それにしてもだいぶ集まってますね。話をしたいので上がらせてもらってもいいですか?」


「どうぞどうぞ。」


宮司さんをリビングに案内し、お茶を出すと宮司を挟み込むようにして神様がたちがガンを飛ばしていた。


「これはこれはご無沙汰じゃな。長谷川に若い宮司がおったと聞いてから不思議に思っておったが直毘神直々に降臨とは暇なもんじゃの。」


「そうだね~、僕たちこんな不快な目に合ってるのに神聖な神社でゆっくり時間を過ごしてから起こしとはいいご身分だね。」


知りたくなかったけど、この人も神かよ!この辺神様とかキモいのばっかりだな。まともなやつはいないのか。いやいるけど老人が数世帯だけなんだよな。人口に対して人外が多すぎる。


「いやーできればこんなところ来たくはなかったよねー。でも君たちの神気の気配がしたから無碍にできなくて助けてあげたし今日顔を出しに来てあげたんだよ。もし私が何もしなかったら今頃彼は無事ではすんでなかったよ。むしろ感謝してほしいね。」


「今まで無視を決め込んで会いにも来んかった奴が今更なにを言っとるんじゃ。大事になる前に顔を出せばよかったじゃろうが。」


「そんなこと言われても困るよ、いつもこっちにいるわけじゃないし今回はたまたまだよ。たまたま。」


このまま待っていても話が進まなそうなので会話の途中で悪いが質問させてもらおう。


「あの、率直にこの状況どうしたら改善しますか?」


「それはだね、これをつけたまえ。」


宮司さん、いや直毘神様が渡してきたのは細長い布の紐だった。一見裂いた儺追布なおいぎれのようだがこれは何なんだろうか。


「これは私がじっくりと時間をかけて作った神聖な布だよ。つけていれば君の匂いが無くなるんだ。」


「な~にがじっくり時間をかけてじゃ、鼻くそをほじるぐらいの手間じゃろそんなもん。」


「余計なことは言わない。匂いについてはこの前話したように今君はここに居る神のせいであの影、悪霊にとってとてもいい匂いがする餌になっているといったね。この布はそのにおいを消してくれる効果があるんだ。ただし今集まっている悪霊は君がここに居ることがわかっているからつけてもいなくなることはない。だからこれからそれをつけて目に見える奴らを浄化しに行こう。そうすれば解決だ。」


「神様が言うことだから疑うつもりはないけど、変な宗教の押し売りみたいな内容なんだよな~。」


布を腕に巻き付けて先ほどのように影へ水をかけに行くと、今まで消えていくそばから補充されていたのだが全く増える気配がなくどんどんと数が少なくなっていき、ついには0になった。


「よっしゃー!二度と出てくるんじゃねーぞ!」


「ほーら私の言ったとおりになった。これが神格の違いってやつだよ。布は消耗品だから千切れる前に新しいのへ取り換えるのを忘れないでね。とりあえず10本おいていくから無くなりそうになったらまた神社のほうへ顔を出しに来てね。私がいなくてもこの前会った女の子に言えばもらえるようにしておくから。それじゃあ!」


その場でフッと消えてしまった直毘神に驚きつつもこれでやっと普通の日常を送れる幸せに俺は喜んだ。


「何を喜んでおるんじゃ、その布は渡そうと思えばおぬしが神社に行ったときに渡せたはずじゃ。それを渡さずに今日渡しに来たのはおぬしに恩を感じさせるためじゃぞ。いくら神社で祀られているとはいえ信仰している人の数は少ない、こんな田舎で新しい信者の数が増えることは望み薄の中でおぬしのように見えるものがいれば積極的に取り込んで死ぬまで感謝させようという腹積もりじゃぞあれは。」


「ぼくも~そう思うな~。神のくせに恩着せがましいよね~。何も言わず助けたほうがカッコいいのにあ~いうところがほかの大神との信者数の違いに現れるんだろうね。ほんと神格だけだね。」


うーん、そういうことを言われると素直に感謝しにくいよな。助けてもらったことに違わないんだけど二人からこんなことを言われるってことは同じような手口を何度も使っていて神の中で噂話のようになっているのだろう。


神様すごい!で終わりたかったな。まあ平和になったからどうでもいいや。

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