第5話 直毘神社

いま俺は昨日、神様方に聞いた直毘神様の祀られている神社へと向かっている。午前中に神棚の設置を終えてその中に収めるお札を買いに行くのだ。


家を出て町というか村を歩いているのだが相変わらず人が少ない。田舎あるあるなのか人の住んでいない空き家や廃墟が多くあり住んでいてもご老人が多い。


いくら移住者を募集しているとはいえその集まりは悪い。今の日本はこんなところが多く人口減少というか田舎と町や都市部の差が大きいのだ。


こうやって歩いていてもすれ違う人はいなく時折畑で作業しているのを見かけるくらいでなんというか寂しいのだ。


俺のように移住してくるものが今後増えてこればこの景色もちがってみえてくるのだろうか、あまり自分の住んでいる場所の悪いことばかりを考えていてはいけないなと思っているとようやく神社の前まで来ることができた。


山間部の神社ということもあり石の階段が見上げるほど高く続いていた。


「今からこれを上るのか。運動なんてしてないし明日は筋肉痛かもな。」


「若いのに悲観的だなー。これくらいスタスタと昇っていきなよ。」


「うっわ!」


突然横から声をかけられて心臓が止まるかと思った。横を見ると宮司さんなのか白い着物を身に着けた若い男性が立っていた。


「参拝かい?僕は先に行ってるからゆっくり上ってくると良いよ。」


そう言って流れるように上へ上へと上がっていった。


「すげ~。どんな足腰してるんだあの人。」


後姿を見ていてもしょうがないので自分もゆっくりと階段を上り始めた。




「やーっとついた。もう駄目だ疲れた。」


長い階段を上ったことで足はプルプルと震えており、その場に座り込んでしまったので立ち上がる力が入らなくなってしまった。


吹き出る汗を服の袖で拭うが久々の運動ということもあり全身が熱を帯びていて一向に止まる気配がない。


「よく頑張ったね。はいお水。」


先ほどの宮司さんが水の入ったペットボトルを渡してくれたのでお礼を言って一気にのどへ流し込んだ。水はよく冷えており体の熱を冷ましてくれた。


「それで今日は何をしに来たのかな?」


「この間移住してきたんですけど、家に神棚がなくて今日設置したんでお札をいただきに顔を出しました。」


「へーそれにしてもなんでうちの神社にしたんだい?少し離れればもっと有名な神社がこの辺にはあるだろ?」


「知り合いがここの神様には厄払いの力があるからおススメだって言ってたので。」


「そうかいそうかい、それじゃあ着いておいで。お札を売ってあげるから。」


宮司さんについて行き神社横の社務所へと移動する。


社務所に着くとここでは珍しい若い子が働いておりしっかり巫女の服装をしていた。


「本日はどうされました?」


「神棚に置くお札が欲しくて・・・。」


「大きさが種類ございましてどの大きさになさいますか?」


大きいのは少し高いな。小さいのは俺が嫌だから中サイズにしておくか。


「この真ん中の物でおね「大きいのにしておきなよ。」」


横で見ていた宮司さんが会話に入ってきて大きいのお札を進めてきた。


「別に大きさで効果が変わることはないけど君の家には大きいのがあったほうがいい。ほかでもない宮司である僕が進めるんだアドバイスは素直に受け取ったほうがいいよ。」


なんだか押し売りを受けているみたいだが設置自体には問題ないので少し懐が痛いがここは素直に従っておこう。というかこの高いとか安いって考え方がそもそもよくないんだろうけどどうしても考えてしまう。


「わかりました、大きいのにしておきます。」


「2500円になります。」


財布からちょうど出してお札を受け取る。


「これは僕からのおまけだよ。」


宮司さんにお守りを一つもらった。


「君の用事は終わったみたいだから歩きながら話そう。僕にはなんとなくわかるんだけど君のところに神様がいるよね。」


なんでそんなことがわかるんだ。


「君から神ノ気、いわゆる神気ってのが感じられたんだ。それは神聖で清らかなものだ。でもこんな山の中それも人の少なくなった村ではよくないものを呼びよせる。家の中にいれば安全かもしれないけど、君はひとたび外に出ればいい匂いのする上質な餌のようなものになってしまっている。ここに来る間は安全だっただろうけどいい匂いを振りまいて歩いていた道にはその香りにつられた悪いものたちが多く待っているだろう。」


「なにを言って・・・。」


「帰り道、どんなことがあっても立ち止まってはいけないし声が聞こえても振り返ってはいけないよ。手招きする物や助けを求める声も無視して家に向かいなさい。お守りはもしも君が危なくなった時に一度だけ身を守ってくれる。家に帰ったらすぐにお札を神棚に祀りなさい。それじゃあ心して帰りなさい。ここから僕は助けることはできないから君の意思の強さだけが命を救う。」


「宮司さんが何を言ってるのか理解しにくいけどすぐに家に帰れっていうのはわかった。でも危ないなら今後出歩けないんじゃないのか。」


「今度家にお邪魔するからその時に改めて話そう。だから絶対に家へ向かうように。」


「わかりました。立ち止まらない、振り返らない、ついて行かない、歩み寄らない、ですね。しっかりと守って帰ります。」

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