第3話 水神様

「土地神の羽張はばりなのじゃ、こちらこそ初めましてなのじゃ。」


神様って人前に出てくるもんだっけ?俺の常識が正しければそんなことは絶対に起きないはずだ。

でも目の前には土地神を名乗る少女が何もないところから突然現れたわけで、現実を受け入れないってわけにはいかなさそうだ。


「それにしても予定よりも早く来たな。もう少しかかると思っておったぞ。」


へ?予定って?


「おぬし自分の意思でここに来たと思っておるのか?夢の中で何度か声を聴くことはなかったか?最近意識が前向きになっているとは思わんか?全部我のおかげなのじゃ。」


たしかに夢の中で声は何度か聞いたな。あれは神様の声だったのか。

そして最近の思考が神様に操られていたと思うとなんだかいい気はしてこないが鬱が治ったのは素直にうれしいし。


「神様のおかげで前に進むことができました、ありがとうございます。」


「おっおう、素直に感謝されるとは思っておらんかったのじゃ、一言二言文句を言われると覚悟はしておったが本人がいいならよいか。」


「それで神様はなぜ俺をここへ来させたんですか?」


「わしの社が人に忘れられ数十年、信仰のなくなった神は少しずつ弱っていき最後には消えてしまう。神話なんかがある神は人々の心から消えることはないし本来の形とは違うが何かしらの形で名前は出てくる。わしのような弱神は一度忘れられたらそのまま来えるのを待つのみ、それは嫌なので波長の合うものに声をかけておったのじゃ。」


「それで俺のもとに声が届いて今ここに居るわけですね。それじゃあこれから羽張様をあがめればいいと。」


「別にあがめる必要はないのじゃ、ただわしのことを知ってもらって忘れないようにしてほしいだけなのじゃ。もしおぬしがどうしてもというなら社を新しくして毎日供物をくれてもよいがな。」


まあ別に一人暮らしだしそれぐらいやってあげてもいいよ。それに社は新しくしようと思ってたし神様公認で変えていいならぜひやらせてもらおう。


「それにしてもこの野菜はそんなにおいしくないのう、どこで育てたものじゃ?」


「そのへんのスーパーで買ってきた奴ですけどそんな変な味しました?」


「なんのいうか臭いとというかまずいというか何とも言えんのじゃ。」


「もしかしたら農薬の味かもしれないですね、俺は気にならないですけど野菜やコメで農薬の味や臭いがするから駄目だって人はいるらしいし、水でもカルキ臭いから水道水は飲めないって人もいますね。」


「そうなのか・・・それではこれから供える野菜はそこの畑で育てる野じゃ。もちろん薬は無しじゃぞ、わしも力を貸すから絶対にうまい野菜にするのじゃ。米は陸稲をするのじゃ。本当は水田がよいのじゃがこの辺にはないから畑で育てるのじゃ。」


時間はあるし新しいことを始める野にはいい機会だし羽張様に言われた通りいろいろやってみるか。


「わかりました、やり方は教えてくださいね。自分ではやったことないし何の知識もないから心配で。」


「任せるのじゃ。」


「そうだ羽張様!今家の探検を行ってるんですけどここのお社みたいに何か目に留まるものってあります?」


う~んとうなった後そうだと手をたたいた神様。


「家の裏に井戸があるのじゃがそこに水神がいたはずじゃ、わしも顔話しばらく出しておらんから一緒に行くのじゃ。」


シュバーと走り去りこちらを向くとこっちじゃと手を招きまた走っていく。

直ぐに追いかけ家の裏に回ると、小さな井戸があり汲み上げるための仕掛けは無くなっており落下防止のために金網がかぶせられていた。

内見の時にこの井戸は水が出なくなったと聞いていたが水神様がいるということは水脈があるということだろう。


「おーい羽張なのじゃ、久々に顔を見せに来たのじゃ~。」


井戸の中に顔を突っ込み声をかける神様。はたから見たら金網の敷かれた井戸の中から体が生えているホラー映像なのだが本人は友人に声をかけているだけなのでここでは黙っていよう。


「なんだ~?久しぶりだな羽張~。もうとっくに消えてしまったと思っていたぞ。」


井戸の中から小さな白蛇が出てきて羽張様に声をかけた。


「消えてはおらんのじゃ・・・消えかけじゃが。それよりここに新しい住人が来たから紹介しに来たのじゃ。」


「神さんがそんな簡単に人前に出るもんじゃ~ないんだが今更遅いな。俺は水神だ~よろしく。ほんとの姿はもっと大きいのだが~ここは水脈が細いから僕も小さいのだ~。」


「わしもほんとの姿はぼん・きゅ・ぼんなのじゃぞ。今は力がないからこんな姿じゃが。本当じゃからな!嘘じゃないからな!」


別に聞いてないし気にしてないから、そんな食い気味に来られても困るんですけど。


「えーっと長谷川です、今日からここに住むことになりましたお隣同士?仲良くしてください。」


「ここに住むなら水があったほうがいいよね。フン!!」


水神様が声を上げると井戸水が噴き出し始め見る見るうちに中が水で満たされていく。


「これでいいかな~?羽張は迷惑をかけると~思うからその迷惑料だよ。僕の力のおかげで冷たくてすごくおいしいから~ぜひ飲んでね。栄養満点で畑とかに使ってくれてもいいからど~んどん使ってくれ。それからたまに井戸のわきにお酒と塩を置いておいてもらえるとうれしい。」


あっ、あなたもお供え物ですね。そりゃあそうだよな神様に力貸してもらったんだからそれぐらいしないといけないよな。たとえ神様が勝手にやったとはいえ。


「水神よ、長谷川にいまこの家の案内をしておるのだが何か特別なものはあったかの?」


「もう~ないんじゃないかな?」


「そうか、それでは探索は終了じゃな。これからはおぬしの家を案内してほしいのじゃ。何やら家を新しくしておったがよく見ておらんからの。」


「僕も~ついて行くよ。」


よくわからないが神様たちを家に案内することになってしまった。案内してもらって断りにくいし仕方がないので家の中に行こう。



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