自由な監獄
フィロンは次に、僕を大きな大きな監獄の中に連れてきた。
でもそこは監獄というよりもまるでお屋敷で、囚人たちはそこら辺に寝っ転がったり、中庭にあるヤシの実をもいで食べたり、看守が持ってきてくれる服からどれが似合うかなとか選んだりしているんだ。
「ここは、監獄じゃないの?」
「そうだよ、監獄だよ。でもね、自由な監獄なんだ。ここでは何をしたって許される。ただひとつ、脱獄さえしなければね」
「監獄なのに、なんでもできるんだね」
「うん。人間というものは
「でも、この人たちは囚人なんじゃ……」
「いいんじゃない? 脱獄しちゃいけないってルールさえ破らなければ、ここの人たちは何をしたって自由なんだから」
「それって、本当に自由なんだろうか」
「自由さ。ここにいさえすれば、彼らは勝手に監視し合う。だからここでは看守も囚人なんだ。一番えらいのはそう、この監獄そのものなんだよ? 王様は監獄なのさ。監獄が王様である以上、ここの人たちは絶対的に安心だ。家も、食事も、衣服も、あらゆる安全が保障されるんだよ。これこそ完璧な自由さ」
「なんだか、不思議だな」
「何が不思議なんだい?」
「自由っていったい、なんなんだろう。つながれているのに自由だなんて」
「君は変なことを考えるんだね、ハルくん。疑っちゃだめなんだ。疑いはシステム、つまりここでいえば、監獄の崩壊を招くんだ。疑っちゃだめだよ、ハルくん。疑ったら負けだ。疑ったら、自由は奪われる。疑ったら、疑ったら……」
フィロンが呪文のように唱えているのを聴いていると、僕の頭の中はますますぼやけてきて、だんだんと考えるのがめんどくさくなってきたんだ。
「さあ、ハルくん。次、行こうね」
彼はまた僕の手を引いた。
きっとここの監獄の囚人たちは、こんなふうになっているんだろう。
まあ、いいか。
考えるのはめんどうだ、めんどうだ、めんどうだ……
フィロンはとても不思議な顔で笑っている。
チョウチョを絡めとったクモみたいな。
気持ちいい、つながれているというのは……
僕の頭はどんどんからっぽになっていって、気がついたら次の場所へと降り立っていた。
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