第2話

夜のスラム街、水路の近くで冷たい風が吹き抜けた。


子供の悲鳴が響く。少年は壁際に追い詰められ、震えながら後ずさる。

目の前には、薄汚れたマントを羽織った男が必死の形相で少年に語り掛ける。


「ぼうず、ぼうず、すまんなぁ…こらえてくれ、こらえてくれ…」


男の手から放たれた黒い炎が、少年に迫る。

魔法の冷たさが肌を刺し、恐怖が体を縛りつけた。


「助けて…誰か…」


少年の声はか細く、誰にも届かない。


黒い炎が彼の心臓に触れる寸前、少年は目をぎゅっと閉じた。

その時…


――「大丈夫?」


少年に声が届いた。

目を開けるとそこには優しい笑みを浮かべた青年が立っている。

彼の背中越しに男の姿はもういない。


「え…」


青年は微笑みながら答えた。


「安心して。さっきの男は助けに入ったら、すぐに逃げて行ったよ。」


青年の言葉に、少年は安堵したように呼吸が穏やかになっていく。

事が事だけにあっけない幕切れにまだ表情は困惑した様子であった。


一方、その頃――


スラム街の水路の陰で、先ほどまで少年を襲っていた男が静かに倒れていた。

彼の顔は青ざめ、まるで時間が止まったかのように無防備な姿で気絶していた。




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