第39話

チャドと礼王レオの2人に黙ってと言われて仕方なく俺は静かにすることにした。


「もう一回改めるよ」とチャドが話を続けた。

「一平 にいと礼王ちゃんには、どちらか選んでもらおうかな…。オレに協力するか、それとも死か」

表情は見えないが、チャドの口調には冗談とは思えないくらい残忍な響きがあった。


「死?」

まさか、チャドがこんなやつだったなんて…。チャラいし、ソォーンの下で働いてたりするけど、悪いやつじゃないと思ってたのに…。


「どうする?オレに協力する?おとなしく殺される?」



「いい加減にしてよ。いつまでアタシをこんな茶番に付き合わせるつもり?アタシを縛って床に転がしてまでやることなの?さっさと縄を解いて、ソファを持って来て座らせなさい」

礼王の冷たい声に部屋の空気が凍りついた。


「チャド、あんたがそんなことできるわけないでしょ。あんたは所詮、小物なんだから」

「お、おい、礼王。あんまり酷いこと言うな…。何されるか分からないぞ」

「チャドが人を殺したりできるやつじゃないってことくらい、アタシでもわかるよ」


「ヤダな〜、礼王ちゃん。そんなに褒めないでよ、照れちゃうな〜」

「褒めてないけど…」


チャドは急に元のチャラ男に戻って、俺たちの縄を解いてくれた。


「チャド、どういうことなのか、説明しろよ」

「アハハ、一平兄の焦った顔、面白かったな」

「うるせぇよ!さっさと教えろ」


椅子もソファもない部屋らしく、俺たちはラグの上に並んで座っていた。

「ソォーンはねぇ、詐欺師だよ。オレもあいつに騙されて酷い目にあった」

「詐欺師?実業家じゃないの?」

「あいつのアイディアはほとんど誰かから盗んだか買ったものだよ。けど、上手いこと堅銀の会長に収まりやがった」


そうだったのか…。

那愛魔ナアマは知ってるのか?ソォーンがスポンサーなんだろ?」

「あのオバサンは…」

言いかけて、礼王の方を見て、慌てて言い直した。

「あの美魔女は…」

「オバサンでいいよ。本当にそうだもん」

「ちょっと待てーっ!!いいわけないだろう。断じて、オバサンではないし、美魔女なんて安っぽい呼び方もやめてくれ!那愛魔のことは、女神さまと呼べ!」


2人はしらっとした冷たい目でこちらを見た。


「ちょっと、いい歳して、女神さまって…」

「いい歳してなんて言うな!そんなこと、那愛魔にだって言われたことな…」

あ、そういえば、いい歳してって那愛魔に言われたことあったな…。


「もういい!那愛魔は那愛魔でいいだろ?」

「はいはい。じゃ、話もどすよ。那愛魔もソォーンが詐欺師ニセモノだとうすうす気づいてるみたいだ。だから、歌えなくなったんだよ。というか、歌えなくなったことにしたんだ」

「え?歌えなくなったフリなの?」

「那愛魔は後悔してる。嘘のせいで、礼王が巻き込まれることになったから…」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る