第37話

赤信号で車がとまると、女性がかわいらしいキャンディポットを差し出して、「よかったら、どうぞ」と言った。


礼王レオに注意しておいてよかった、と思いつつ

「甘いものは苦手なので…。すみません。ありがとうございます…」

と断ると、

「あ、ありがとうございます!」

と礼王が一つキャンディを取った。


俺がすごい顔で睨むと、礼王はこちらをバカにするような表情で、ポケットにキャンディを入れた。〜っっ!腹立つっ!


その後は、女性は何も喋らず、俺たちは美しい緑の山々を見ながら、車に揺られた。オリエンタルないい香りと、ふわふわの敷物と、美しい景色…。礼王の運転とは比べものにならないくらい車の揺れは小さい。なんだか、逃げてるってことを忘れてしまうくらい、いい気分だ。


ウトウトしかけて、ハッとした。ダメだ、寝てしまっては…。

礼王は…?礼王は、後ろの座席で頭を傾けてユラユラしていた。


礼王、寝たらダメだよ。起きろ…。


そう声をかけようとするのだが、声が出ない。

女性が車を止めた。


「着きましたか?」と聞くと、振り返った女性の顔はぬいぐるみのクマだった。エッと、驚いてよく見ると、女性ではなくアッシュグレーの毛色のクマだった。


ヤバい、逃げなきゃ…。礼王…、礼王は…?

礼王はクマを可愛い可愛いと言って、撫でている。

礼王、そんなことしてる場合じゃない…、逃げなきゃだめだ…!


クマが「お嬢さん、可愛いね〜!ちょっと冷たい顔もいいなぁ〜!」などと言っている。

クマのくせにチャラいんだよ…。

「お父さんに似なくてよかったね〜」

余計なお世話だ!本当の親子じゃないんだから、似てるわけないだろ!


いや、それよりここは変だぞ。逃げよう!

だが、俺の口はパクパクと動くだけで、何故か声は出てこない…。

喉がからからで、頭はガンガンする…。身体も動かな…い…?

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