第36話

食事をしている間に車を盗まれてしまうという大ピンチに、礼王レオは慌てることもなく、誰かの車に乗せてもらおうと言い出した。


「大丈夫かなぁ…。乗せてくれる人がいるかどうかも心配だけど、知らない人の車に乗って危なくないかな…」

「もぉ〜、一平はすぐマイナスなことばっかり言うよね?じゃあひたすら歩く?」

「いや、それはちょっと…」

「グズグズ言わないで!今できることをやる!それしかないでしょ?」

「はい…。すみません…」


おっさんより美少女が頼んだ方が成功率が高いだろうと踏んで、レストランから出てくる人に、礼王が行って話しかける。だが、行きたい方向へ向かう車がなかなか見つからない。


一人の女性がレストランから出てきて車に向かって歩いて来た。

アッシュグレーのショートカットの女性は、小柄で20代後半かせいぜい30代前半くらいだろうか。礼王が走り寄って声をかけた。俺は遠くから成功を祈るしかない。


どうやらオッケーをもらえたらしく、礼王が笑顔で俺に手招きをした。


「どうもすみません。お邪魔いたします」と丁寧に頭をさげると、

女性は少し警戒するように

「あ、お連れの方がいたんですね…」と言った。


「申し訳ないです。2人でもよろしいですか?」と確認すると

「あぁ、もちろん大丈夫です。一番近い駅のそばまででいいんですよね?」と笑顔で返してくれた。


女性が運転席に乗り込んだ隙に、礼王に

「何か渡されても、何も口にするな」と念を押しておいた。

「アタシをバカだと思ってるの?」と礼王は口を尖らせた。


礼王に後ろの座席に座らせて、俺は助手席に乗り込む。

そんな人には見えないが万が一に備えて、礼王に運転席の真後ろ、俺が隣に座って牽制する形だ。


車内はオリエンタルな良い香りがしている。ぬいぐるみが並べられていたり、ふわふわのピンクのフェイクファーが敷いてあったりして、若い女性らしい可愛らしい内装だ。

礼王は「わ〜、可愛い!」とテンションが上がっている。


車が動き出すと、女性は空気を和ませようとしてか、話しかけてきた。


「お嬢さんですか?お若いお父様ですね」


やっぱり親子に見えるのか…。不本意だが、そう見えて当然だろう。


「お嬢さん、すごく可愛いけど、芸能人か何か?」

「いやいや、とんでもない、メイクが濃いだけですよ」


恐る恐る後ろをうかがうと、礼王は険悪な顔つきで睨んでた。

しょうがないだろう、正体がバレちゃ困るんだから…。

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