第35話

「一平、しっかり掴まっといて!命は保証しないからね!冗談だけど〜」


いや、冗談ではない!俺が運転すると約束してたはずなのに…。

俺はアシストグリップを固く握りしめて、歯を食いしばっている。


「つ、かまった、ら、おわりなん、だか、ら、ゆっくり、走れ…」


車は、道路の僅かな隆起を捉えて、跳ねるように走っている。俺は舌を噛みそうになりながら、そう言うのが精一杯だ。


飛ばしてるだけじゃない、カーブのドリフト走行やら、コーナーの内側を攻めようとするやら、レーサーのような走らせ方だ。礼王レオが免許を持ってないってことは、できるだけ考えないようにした。


マホロシティを飛び出して、高速に乗ったり降りたりしてもう3時間ほど走っただろうか。今目の前に見えるのは、山また山、その中を曲がりくねった道が続いている。


礼王が取ってきた車(那愛魔ナアマの車の中では地味なのを選んだと言っているが)、シルバーグレーのクーペは、この山の中ではちょっと目立っているのではないだろうか…。



「あ、お店あった!ご飯食べよう、お腹すいた!」

少し開けた場所に何軒か食事のできる店があった。意外にも、急ブレーキを踏むことなく車は静かに止まった。

「運転上手いのは認めるけど、スピード出し過ぎ!捕まったら終わりなんだから…」

「はいはい、次は一平が運転してよ。アタシは寝てるから」


レストランは、家族連れも多く、賑わっていた。


礼王はよほどお腹が空いていたのか、お店の名前のついたボリュームたっぷりのサラダ、300gのステーキに、デザートまで頼んだ。こんな時にそんなに食べれるなんて、どんな神経なんだ。俺は緊張であまり食欲がなかったのでドリアだけを頼んだ。

「ダイエット中なの?」と礼王にバカにされたが…。


食事を終えて外に出ると、車が無くなっていた。

「え、どういうこと?」

「ドアロックは間違いなくしたはずなんだけど…」


おそらくキーの電波を悪用した窃盗だろう。まさかこんなところでそこまでして車を盗むような人間がいるとは思いもよらなかった。しかも白昼堂々と…。

「近くに駅もなさそうだし、車が無いとお手上げだよ。どうする?」

礼王はすぐに決断した。

「ここの駐車場で誰か乗せてくれる人を探そう」

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