第33話

「ソォーンに礼王レオのことを自由にしてほしいって言ったんだけど、相手にされなかった」


礼王は俺をじっと見て、

「あいつが他人の言うこと聞くわけないよ」と言った。


しばらく2人とも無言になった。

どうしたらいいのか、全く考えが浮かばない…。


「2人で逃げちゃおうか…」礼王がボソッとつぶやいた。


驚いて礼王の顔を見ると、俺をまっすぐ見つめていた。

「アタシは一平がいてくれたら、それでいいよ」


えっ?それは……そういう意味…?

頭の中で、あの時間近に見た那愛魔ナアマの美しい顔や、ソォーンのいやらしい笑顔がぐるぐると渦巻いた。


礼王をソォーンから守りたい。でも那愛魔との約束は…?那愛魔とのことで罪悪感もある。


それに礼王は俺にとって、あの生まれたてのヒヨコみたいな存在なんだ。俺とは別次元に存在するかのような、清らかで尊いもの…。


うつむいて礼王の視線を避けた。

「ごめん、礼王とは恋人にはなれない…」



「はぁ?何か勘違いしてない?」と言われ、慌てて顔をあげると、礼王があきれたようにこちらを見ていた。


「恋人になってなんて言った?一平が下僕としてそばにいてくれたら、それでいいって言ったんだよ」


なんだ、下僕か…。ホッとしたような、がっかりしたような…。


「それと、ヒヨコみたいな存在ってどういう意味?バカにしてない?」


え…。声に出してた?


「いや、ヒヨコっていうのは…。ほら、ふわふわして可愛くて、清らかで尊いでしょ?だから…」

「なんでヒヨコなのよ?子猫でも子犬でもいいのに」


そうなんだけど、俺にとっては、あのヒヨコがこの世で最も小さくて美しくて儚い存在だったんだよ。上手く説明できないけど…。



「ま、いいよ。私のこと大事っていう意味だよね?」

礼王は今までで一番可愛い笑顔で俺を見た。




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