第30話

今回は那愛魔ナアマの時とは違って、事務所の応接間に連れてこられた。自社ビルらしき高層ビルの、最上階ワンフロアすべてが応接間になっており、美術館かと思うくらい絵画や美術品が並べられている。一点一点は素晴らしいものだろうが、これだけごちゃごちゃ並べるとちょっと悪趣味だ。


革張りの立派なソファから一人の男が立ち上がって、近づいてきた。


「ソォーンです。あなたが山田一平?」と右手を差し出してきた。

人の良さそうな満面の笑み。だが、噂を信じるなら逆に胡散臭い笑顔だ。さりげなく呼び捨てでマウントをとってくるあたり、やはりいやらしさが滲みでている。


「俺に何の用なんですか?」

とりあえず、差し出された右手は無視する。怪しい噂に一票だ。それに、手汗がバレるのも避けたいし…。


ソォーンの後ろに控える部下らしき男たちの中にチャドを見つけて、思わず睨みつけた。スーツ姿は珍しい。ビジネスマンというよりホストみたいだ。紫がかった派手な色味、細身のシルエットで、相変わらずピアスもジャラジャラついている。俺の視線に気づいてニヤニヤしているのにはカチンときた。


「君に会いたいと思ってたんだよ、一平」

ソォーンは無視された右手で俺の腕を馴れ馴れしくぽんぽんとたたいた。


「どうして俺なんかに会いたいんですか?ジャスティス。あ、呼び捨てでいいですよね?」軽くジャブを打ってみる。


ちょっとムッとしたようだ。

「申し訳ない、チャドがいつも君を一平 にいと呼ぶので、つい友達のような気になっていたよ。一平くんと呼んでいいかい?」

「いいですよ、ソォーンさん。こちらこそ失礼しました」


「まぁ、固い話は後にして、まずはソファに座って。何か飲みますか?」

「いや、喉渇いてないんで」

この状況で何か飲むなんて、俺もそこまで阿呆じゃない。毒入ってたら、どーすんだ!

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