第29話

「もぉ〜、一平 にい、ちょっとは自分で調べなよ…。那愛魔ナアマのデビュー当時から、ソリッド•シルバー•カンパニーがスポンサーについてることなんか、ネットで調べればすぐわかることだよ」

「ソリッド…?」

「そうだよ、堅銀っていえば、超有名企業でしょうが…」

「ふ~ん、それで?ボスってそこの社長?」

「ジャスティス•ソォーン!それも知らないの?おっさんの無知は可愛くないよ!」


うっさい!最近ようやく新しいスマホ買ったばっかりなんじゃ!

前のやつは、ここでは使えなかったからな…。

しかし、ネット検索か…。思えば当たり前のことだが、いろんなことが起こり過ぎてて完全に頭になかった…。


「お前のボスに言っとけ。話があるなら回りくどいことせず、直接来いって」

「おっけ。伝えておくよ」

チャドのニヤニヤ顔は本当にイライラする。一発殴ってやりたいが、無意味な暴力はやめておこう。俺は平和を愛する男なんだ。




ソリッド•シルバー•カンパニー(堅銀と呼ばれてる)のホームページを開いてみた。堅銀の沿革は、もともと製薬会社に作られたIT部門だったものが、次々と新しい事業を始めては成功させ、独立会社となり、やがては親会社や関連会社を飲み込んで一大企業グループとなったということだった。そのIT部門を立ち上げ、今やグループ全体の会長となった男、それがジャスティス•ソォーンだ。


ソォーンの表の顔は物腰柔らかい理知的な企業家で、まさに“できる男“の典型だが、噂では裏の顔があるらしい。企業買収のための裏工作などは想定の範囲内だが、もっと酷い噂になると、薬物売買、詐欺行為、暴力を使った工作、政治家との不正な関係など、本当ならだいぶヤバいやつだ。


そんな男が俺のことを気にしてるってどういうことなんだ?ガールズバーでバイトしてるだけの、誰も存在に気づいてないような俺を…?


チャドからソォーンが会いたがっていると伝言があった。

またリムジンのお迎えだ。那愛魔のことを思い出して、胸がチクッと痛んだ。

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