第2話

「名前教えてよ」礼王レオは、ほっそりした腰に手を当て、モデルのように長い足を斜めに伸ばして立っていた。

「山田一平」

「変な名前〜」

「変?普通すぎるくらい普通だけど?」

「そんな変な名前聞いたことないよ!」

礼王はクスクス笑いながら言った。

どうやらこの娘は、世間を全然知らないらしい。

「名前なんてどうでもいいだろう?」

「そりゃそうだ」意外に素直にうなずいて、礼王は

「じゃ、一平、よろしくね」と言った。


「でも怪しい男の正体なんて、どうやって調べるんだよ」

「そいつ、アタシがバイトしてるガールズバーの常連なんだ」

「お前、ガールズバーで働いてるの?未成年だろ?」

「まぁまぁ、堅いこと言わないでよ。うちの店長、ルーズだからさ、年齢確認なんて適当なんだよ」礼王は、そう言ったかと思うとまた急に怒り出した。

「それから、何度も言わせないでよ!アタシは礼王。お前じゃないから!」


なんだか、俺は礼王の保護者のような気分になってきた。

「良くないよ!ガールズバーに来る男なんて、危ない奴ばっかだろ?」

「あのね、おっさん、そんなのわかってるに決まってるじゃん。こっちは、何度も危ないのをかわしてきてるんだよ。」

「おっさんじゃない。一平。」

「はいはい、一平。お説教はやめてよね。」

「とにかく、明日うちのガールズバーに来て。あいつが来たら、跡をつけて」そう言って、礼王は名刺を差し出した。


そういうわけで、俺は今ガールズバーにいる。こんなところに来たのは初めてなので、居心地悪いことこの上ない。

接待でクラブやキャバクラは行ったことはあるが、ガールズバーは経験がなかった。そもそも接待なら、自分は空気みたいになっていればよいが、1人で入った以上、何も喋らないわけにはいかない。

それに、休職中の身にはセット料金の飲み放題コース3000円すら痛いのだ。だが、そこは礼王がクーポンなどを用意してくれたので、少し安くしてもらえそうだ。しかし、目の前に立っているキャストの女の子は、なんとか自分のドリンクをご馳走してもらおうとしつこい。礼王が担当してくれればよいのに、どうやらあいつは人気があって指名がどんどん入っているらしい。

「ねぇ、一平さ〜ん、ドリンク飲ませてよぉ〜」甘えた声でねだってくる女の子を、なんとか無視している。

そんなことより、俺は那愛魔ナアマの彼氏だとかいう男が来るのを見つけなくてはいけないのだ。

また1人客が来たようだ。若い男だ。銀色に染めた髪を無造作に見せかけてガチガチに固めている。首にはシルバーチェーン、タンクトップの肩を片方見せるようにずらしてニットを羽織っている。もちろん、耳にも鼻にも唇にも、ピアス、ピアス、ピアス…。唇ピアスなんて、キムチうどん食ったらしみそうだな…

ものめずらしげにジロジロ見てたら、チッと舌打ちされてあわてて目をそらした。

すると、向こうから礼王がじっと見ていた。目が合うと、そいつだというように目配せしてきた。

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