美少女に翻弄されるおっさんは幸せなのか?

るいすきぃ

第1話

人生何が起こるかわからない。

新入社員として入社して20年近く真面目に働いて、係長にまで昇進し、順風満帆のつもりでいた。

5年前には、役員命令でキャリアコンサルタントの資格も取った。

だが、それが間違いの始まりだったかもしれない。

キャリアに悩む社員の相談にのるうちに、少しずつメンタルを蝕まれていった気がする。

この仕事は俺のやるべき仕事なんだろうかというような仕事ばかり振ってくる上司に嫌気がさして、ある朝起きられなくなった。


今や絶賛休職中の俺は、それでも未練がましく会社の近くの繁華街をフラフラと歩いていた。

ぼんやりと考えごとをしながら歩いていると、前から走って来た人にぶつかられた。走って来たその勢いでぶつかったせいで、相手は尻もちをついてしまった。

そっちがぶつかって来たんだけどと思いつつ、「すいません…」と謝りながら手を差し出して起き上がるのを助けようとして顔を見たら、ギャル中のギャルだった。

ものすごくちっちゃな顔に、パーツ大きすぎでしょと言いたくなるくらい大きな目、それをさらにつけまつげやアイラインで盛り盛りに盛っている。鼻や口はお人形さんのように小さく整っている。

あっけに取られてぼ~っと顔を見ていたら

「起こしてよ」

と言われた。あわてて掴んだ手を引っ張る。

ギャルは、太ももが丸見えの超ミニスカートのお尻をパンパン払いながら

「ちゃんと前見て歩いてよね」

と言った。

「そっちが前見てなかったんだろ」と言いかけたら、

「あ~あ、見失っちゃったよ」と睨まれた。

大人としてここはきちんと怒ってやろうと、大きく息を吸ったが、ふと気になって「何を見失ったんだ?」と聞いてしまった。

「アンタには関係ない」

そりゃそうか、と思って立ち去ろうとした。だが、何かが気になる。

何だっけ…

「そうだ、那愛魔ナアマだ!」思い出して、思わず聞いてしまった。

「あんた、那愛魔に似てない?」

礼王レオ

「はぁ?」

「アタシの名前。那愛魔の娘だよ。」

何を馬鹿なことを言ってるんだ。那愛魔は二十代前半だろう。あの歌姫にこんな大きな娘がいるはずがないじゃないか。

礼王は口を歪めて皮肉な笑みを浮かべながら、

「あの人、38だよ。」と言った。

そんなバカな…そんなはずはない。那愛魔は、那愛魔は…

確か10年前にデビューして、年齢は非公開だけど、どう見たって20代…

でも、ということはデビューした時10代前半…はおかしいか…

ということは…?

「写真見る?あの人のすっぴん。見た人いないんじゃない?」

スマホを見せてきた。そこに写っていたのは、確かに那愛魔にとても似ている。小顔で大きな目、小づくりな鼻と口、目の前にいる少女とも似ているが、明らかにメイクしてない大人の顔だった。

「そんなバカな!俺の憧れの歌姫が、子持ちの普通の女性…そんなわけない!第一、彼女は結婚だってしてないだろう」

「あの人ねぇ、すっごく惚れっぽくてさ…何人とも付き合ってるんだよ。」礼王はショックなことを平気な顔して言ってくる。

「今も新しい男がいるの。でも、そいつが何か怪しいんだ。だから、アタシ、そいつの跡つけてたんだよ。アンタのせいで見失っちゃったじゃない。」そして思いついたように

「そうだ、アンタ、責任とってアタシと一緒にあいつの正体を調べてよ。」と言った。

なんで、俺が…いやでも、この娘と一緒にいれば、那愛魔と会えるかも…

38歳だっていいじゃないか!那愛魔は那愛魔だ…何歳でも関係ない!

会えるものなら会いたい!

「お願いします。」情けないことに、いい歳したおっさんの俺は超ミニスカートのギャルに頭を下げていた。

礼王は、満足げに「じや、名前教えて」と言った。

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