1.音楽は思い出の記憶媒体だ

私のバイト先は最寄り駅から三駅先の場所にある。最寄り駅、といっても自宅から自転車で十数分はかかる駅なのだが。そこから十分ほど、黒いキャップに黒いヘッドフォンをして電車に揺られる。普段聞いているのはMOROHAの「夜に数えて」という曲から始まるプレイリストだ。この曲は、さぁこれから頑張るぞという勇気と無理しなくてもいいんだという逃げ道を私に与えてくれる。


私と音楽との出会いは中学2年生のとき、Youtubeで見たKingGnuの白日のミュージックビデオだ。透き通る歌声から始まるあの曲を初めて聞いた時の私の心臓は、まるで花火が爆発したかのように大きな音を立てて鼓動していた。衝撃だった。そこから私はこのバンドの曲をすべて聞き漁った。すべてが新鮮で、音楽に憑りつかれた瞬間でもあった。


この出会いから今までにかけて、私は暇があれば音楽を聴くようになった。夕方に歩いて数分のコンビニに行くにしても、ひとり料理をするにしても、それはいつも音楽が共にあった。そして気づけば、音楽は思い出と紐づくようになったのだ。


あの曲を聴けば、文化祭のライブで披露したへたくそな演奏が。あの曲を聴けば、小雨が降る公園で好きだったあの子に振られた苦い記憶が。あの曲を聴けば、受験期に毎朝学校まで送迎してくれた父の顔が。すべて、鮮明に蘇ってくるのだ。


我々は音楽を、何かしらの媒体を通じて聞いている。昔はレコード、少し前ならCD、今はスマートフォン。これらの記憶媒体から発されるこの音たちもまた、私たちの思い出を記憶する装置なのだ。


今聞いているこの曲も、こんな拙文を書いたものだった、と数年後に聴けば思い出すレコードになっていることだろう。

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