第12話 【過去で見たモノは……】
西園寺先輩は木葉のロッカーを開けて、中に黒い箱を置いた。
【やっぱり、西園寺先輩だったんだ……】
小鳥遊さんの目撃情報は本当だった――でも、こうして現場を目の当たりにすると、やっぱりショックだな……。
『言う通りにしたわよ……これで、これで私は選手に繰り上がれるのよね』
西園寺先輩は一人でしゃべり始めた。
【言う通り?】
それってつまり、誰かに指示されたってことだよね。
【どうやら、西園寺マリン単独の犯行ではなさそうだ】
【ほら! やっぱり小西がクロコじゃないっすか! あーしの推理通り……いててて、ソラ先輩、もう戻りません?】
【まだだ、もう少し辛抱しろ】
西園寺先輩はロッカーを閉めた後、その場で笑いだした。
『は、ははは……あははははは! ねぇ、これでいいのよね!』
なんか怖い……まるで別人みたいだよ。
『……さん、い……のよね、こ……で』
誰かの名前を言ってるみたいだけど、突然音声が乱れて聞き取れない。
【ソラ? なにコレ? どうなってるの?】
【さすがに限界か】
その瞬間、目の前から西園寺先輩の姿が消えた。
「あれ? 戻って……きたの?」
「すんませんっす……ソラ先輩。もうこれ以上は無理っ……す」
イロハは糸が切れたあやつり人形みたいに、女の子座りでぺたんとへたりこんだ。
「まぁ、イロハにしては頑張ったほうだな」
「イロハ、お疲れさま。大丈夫?」
「な……なんとか。おなか、めっちゃ痛いっすけど」
あたしはイロハを介抱しながら、木葉のロッカーを見つめた。
西園寺先輩が言おうとしてた名前、誰だったんだろう?
イロハの言うとおり、小西さんがクロコ……なのかな。
ふと、ソラに視線を移すと、窓から校舎をじっと見つめていた。
「ソラ、どうしたの?」
「真白、先に下校してくれ。イロハ、もう一ヶ所、現場検証に行くぞ」
「マ……マジっすか? あーし、もうタイムウォーカーはきびしいっすよ? それに、今の検証で小西の正体がクロコだって、ハッキリしたじゃないっすか!」
激しく抵抗するイロハ。
よっぽど疲れてるんだろうな。確かに、これ以上検証する意味はないような気がするけれど、ソラはなにかに引っかかってるのかな?
「立て、行くぞ」
「いや……だからぁ、小西」
「はやく立て」
「あの、せめて明日にしないっすか? あーし、今日はガチで無理っ……」
「今じゃなければ意味がない。行くぞ」
抵抗もむなしく、イロハはソラに後ろ襟をつかまれ、ズルズルと引きずられて部室を出て行った。
……いや、運び方が雑だよ。
☆
先に下校することになったあたしは、歩きながら色んなことを考えた。
イロハ、おなか痛いの大丈夫かな……。
西園寺先輩、なんか表情おかしかったな。クロコに操られて、あんなことさせられたのかも。
でも、確か小西さんって、入学式の時から学校にいたはずだけど、その頃から今まで潜伏していたってこと?
そもそも、地球人無気力化計画っていうけどさ、こんな小さな田舎町でみんなを無気力にしても意味なくない?
クロコの目的って、なんなんだろ。
「星野さん」
「……え? 小鳥遊さん?」
薄暗くなった正門付近に小鳥遊さんが立っていた。
「こんな時間までどうしたの?」
「ちょっと用事があって残ってたの。星野さんを見かけたから、一緒に帰ろうと思って。ごめんね、迷惑……だったかな?」
「ううん! めっちゃ嬉しいよ!」
そっか、夏の大会前だし、マネージャーさんだから忙しいんだね。うんうん、小鳥遊さんは頑張り屋さんだぁ。
あたしは彼女と談笑しながら(好きな食べ物とか好きな漫画とか)、途中まで一緒に下校した。
「じゃあ、あたしこっちだから」
「あ……星野さん、一つお願いがあるんだけど」
「なぁに? あたしに出来ることならなんでも……っと、勉強以外のことなら。あはは」
「とも……友達に、なってほしい」
街灯がまばたきする帰り道の公園――この間、木葉に『友達やめたい』って言われた公園だ。
その公園で、今度は小鳥遊さんから友達申請だなんて。
嬉しいな。うん、とっても嬉しい。
ソラたちのおかげであたしはあの悪夢のような状況から救われて、その原因となったクロコのことも、もう少しで解決できそうだし。
みんな、笑顔になってくれたらいいな。
「もちろん! あたしでよければ、友達になって!」
小鳥遊さんは少しうつむいた。
前髪で目は見えないけど、ほっぺが少し桜色になってる。
「……ありがとう。私、友達少ないから、本当に嬉しい。そうだ――」
彼女はリュックからポーチを取り出して、中身をあたしに見せてくれた。
「わぁ、かわいいマスキングテープだね!」
「小学生の頃から少しづつ集めてるの。よかったら好きなの、星野さんにあげるよ」
「ホント? でも、小鳥遊さんの大切なコレクションなんでしょ? あたしなんかがもらっちゃっていいのかな?」
「ううん、星野さんにもらってほしいの。友達になった記念として」
「じゃあ、一個だけ」
どれもかわいいから迷っちゃうな。
あ、このハートがたくさんのにしよっと!
「真白、ソレにさわるな」
「……え?」
振り返ると、そこにはソラがいた。
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