第11話 【ドッキドキの現場検証】

 四日前の夕方、全員帰宅して誰もいない陸上部の部室に、西園寺先輩が一人で残っているのを見た――

 帰宅後、あたしは小鳥遊さんから聞いたことをソラに話した。

「部活帰りに校舎二階の図書室へ寄ったときに、渡り廊下の窓から見たんだって」

「……それは、かなり有力な情報だな」

 ソラが小さくうなづくと、イロハが身を乗り出した。

「でしょ! でしょ、でしょ、でしょお? この情報は、あーしが小西を引き付けていたからこそ入手出来た、きちょーな情報っす! いやぁ、ホント苦労したっす~。にゃははは!」

 イロハったら、ものすごく強引に手柄を自分のモノにしてる。

 本当は小西さんに詰められて、泣かされて、メンタルやられてただけなんだけど。(なぐさめるのに相当苦労したよ)

 でも、イロハの昇格に影響すると思って、そのことはあえてソラには報告しなかった。

「あぁ、そうだな。尾行が失敗したことを差し引いても、大幅なプラス評価に値する情報だ」

「ひゃっほーい! やったっすー!」

 大喜びのイロハはいつも以上にハイテンション。そして、いつも通りクールなソラは、自分の調査報告を始めた。

 彼によると、虹色中学校全学年の生徒、教師を調べた結果、あやしい人物はいなかったらしい。(流石は隊長、行動力と調査力半端ないな)

「西園寺マリンを実行役の容疑者としてマーク。明日の放課後、小鳥遊凛音の情報を元に、現場検証を行う。以上だ」

 現場検証? はて?

「え? ちょいソラ先輩。小西は? 小西」

「小西絵梨花、彼女については証拠がまだ不十分だ。もう少し泳がそう」

「ええ――! なんでっすかぁ! 小西、あーしのこと、めっちゃ詰めてきた上に、泣かせたんすよ? もはやトラウマっすもん!」

「……なるほど、それは興味深い話だな」

「あ、違うっす、小西じゃなくて、『小石』につまづいて泣いたって話っす」

 そんな安っぽい言い分けなどソラに通じるわけもなく、自ら地雷を踏んじゃったイロハ。

 当分の間、正隊員への昇格はないと、ソラに告げられた。

 ……まったく、ドジなんだから。



 ここは放課後の女子陸上部、部室前――

 ソラたちの現場検証に立ち合うことになったんだけど、すっごくドキドキするし、手汗がヤバイ。

 今日は朝から授業の内容が全然頭の中に入ってこなかったよ。(普段もあんまり入ってないけど)

「よし、じゃあ行こうか」

「……ちょっとソラ、さすがに男子が女子の部室に入るのはまずくない?」

「あぁ……そうだな。じゃあ」

 ソラはカラフルウォッチの画面を指先で触った。

「これで問題ないか?」

 あたしは目をパチクリさせて言葉を失った――

 だって……だって、目の前にシュっとした銀髪ロングの美少女が現れたんだもん!

「か…かわいい」 

「そうか? 普通だろ」

 いやいや、なにをおっしゃいますか! 圧倒的にかわいすぎて、あたしなんて圧倒的に敗北ですけど!

 やっぱ元が美形のイケメンだと、猫になろうと、女子になろうと、サマになるなぁ……うらやましい限りだよ。

「さて、そろそろ『時間』だ。入ろうか」

「あ……鍵は? 職員室で借りてこないと……」

「フッ、俺の能力を忘れたのか?」

 ガチャン――

 部室のドアから鍵が開く音がした。

 そっか、ソラは念動力(テレキネシス)が使えるんだった。

 部室の中に入ったあたしたちは、木葉のロッカーを見つけた。

「ソラ、あったよ」

「よし、じゃあ現場検証を行う。イロハ出番だ」

「あいあいさーっす!」

 イロハは両手を広げ、目をつむった。

「ねぇ、今からなにをするの?」

「タイムウォーカーで過去を覗きにいくのさ」

「えっ? そんなことできるの?」

「あぁ。イロハは時空間や異空間の往来を可能とする、カラフル人の中でも極めて特殊な能力を持っているんだ」

 タイムウォーカーについて、ソラは説明してくれた。


『未来には行けない』

『戻れるのは、一週間以内の過去まで』

『時刻と場所は、タイムウォーカーを使った時のものが適応される』

『過去に戻れるのは意識だけ』

『制限時間は約五分』


 条件は多いけれど、過去に戻れるなんてすごい! 

 ドジっ子なイロハがシェリフるの調査部隊に選ばれた意味が、なんとなくわかったような気がする。

「ふぅ~……準備おっけーっす。二人とも、目を閉じてくださいっす」

 あたしは目をつむった。

 ん……なんか、頭がボ~っとしてきたような……。


【目を開けておっけーっす!】

【え? もう過去に戻ったの?】


 まぶたをそっと開けて周りを見渡してみたけど、特に変わったところはない……かな? 

 でも――


【あれ? ソラとイロハがいないよ? あたしも自分の身体が見えないし】


 それに声が頭の中で反響してるような……なんか変な感じ。


【意識だけが過去に戻れると説明したろ?】

【あ、そっか】


 つまり、身体は現在、意識だけが過去に戻って、ここで起きた出来事を見られるってことなんだ。

 タイムウォーカーを使ってから三分ぐらい経ったけど、誰も入ってこない。

 イロハの息づかいが荒くなってきた。


【ハア、ハア……ソラ先輩、西園寺まだっすかね?】

【そうだな、小鳥遊凛音から得た情報の時間と、少しズレていたのかもしれないな】

【……マジっすか。あの、あーし、そろそろヤバイんすけど】

【訓練をサボるから五分しかもたないんだ。がんばって耐えろ】

【……はいっす】


『制限時間は約五分』って、イロハがタイムウォーカーを続けられる体力の問題なんだ。

 がんばれ~、イロハ~。


【ハァ、ハァ……ソラ先輩、おなか痛くなってきたっす。一回戻ってもいいすか?】

【ダメだ。耐えろ】

【……はいっす】


 もう五分、経っちゃう! イロハ、限界かも!


【あぁ~ヤバい……おなかいたーい、ん~、あ~】


 そのとき、部室のドアが開いた。

 ――来た。

 入ってきたのは、手に黒い箱をもった西園寺先輩だった。

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