第9話 【忍び寄る影】

 ミーン、ミーンと、セミさんたちの大合唱が、よりいっそう騒がしく聞こえる七月中旬。

 そんなセミさんたちよりも、あたしのクラス、一年三組は騒がしくなっていた。

 ……ザワザワ。

「やっば……超イケメンじゃん!」

「おいおい、なんだよあの子。めっちゃカワイイな~。もはや二次元かよ!」

 ざわつきが止まらない――

 入学以来、こんなにもクラスが騒然となったことは初めて。

 それもそのはず、なにせソラとイロハが、あたしのクラスに『転校生』としてやってきたのだから。

 なんでそんなことになったかって言うと、実は夕べの作戦会議で、ソラが急にこんなことを言い出したからなんだ。


「転校生として学校内に潜入して捜査をする」


 山田先生は、ざわつくクラスのみんなを静かにさせて、

「では、今日からクラスメイトになる転校生を紹介します。じゃあ二人とも、自己紹介よろしくね」

「初めまして、柊(ひいらぎ)ソラです。両親の事情で、夏休み前ですが転校することになりました。みなさん、よろしくお願いいたします」

 さっすがソラ。お手本のような自己紹介だね。学校の制服もキマッてる。

「はろはろ~! 柊イロハでぇ~す♪ よっろしくねぇ~、にゃはん!」

 笑顔全開で目元ピースを決めるイロハ。いつも通りのハイテンションと、可愛さをふりまいている。

 鼓膜が破れそうなくらいの女子の黄色い声と、男子の低音声援で、またクラスが騒がしくなっちゃった。

 教室のガラス窓が割れそうだよ。

「はーい、みなさん落ち着いて~。えー、自己紹介の通り、二人は兄妹で、二卵性の双子さんです」

 あたしと同じクラスに入るために、ソラは山田先生の記憶を改ざんして、イロハと双子設定にしたみたい。

 ちなみに二卵性っていう設定にしたのは、二人が似てないっていうツッコミへの対策らしい。

 まぁ、それは良しとして、ここからが大変なんだよね……。

「それから、柊兄妹は星野さんの親戚らしいので、わからないことがあれば星野さん、色々教えてあげてくださいね~」

 あたしは小さく、「……はい」と返事をした。  

「えーー⁉」

 予想通り来た、四十人同時の驚がくの声。

 案の定、あたしはクラスのみんなから質問責め。

 ソラとイロハはと言うと、コミュ力の高さもあってか、あっという間にクラスに馴染んじゃった。



 放課後、ソラたちは学校の調査をすると言うので、あたしは陸上部専用のトラックへ立ち寄ることにした。

「おー、やってるねぇ」

 木葉が練習してるところを見るのは久しぶり。頑張ってる彼女はやっぱりカッコいいなぁ。

 あたしも負けないようにアーチェリー、頑張るぞ! 

 ドン!

「わっ!」

 しまった、周りをちゃんと見てなかったから、誰かにぶつかっちゃった。

 振り返ると、そこには体操着姿の女子が二人。

「すいません、大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫。あなた一年生? 陸上部は今、大会前の大切な時期なの。部外者は立ち入り禁止よ」

「……あ、ごめんなさい。友達の様子を見に来ただけなので、すぐ帰ります」

 話しぶりからして先輩みたいだけど、すっごく綺麗な人。

 背が高くて、さらりとした長い栗色の髪が風になびいている。

 あたしもこれぐらい身長ほしいなぁ、もっといっぱい牛乳飲まなきゃだね。

「まったく、西園寺先輩の練習の邪魔ですのよ。しっしっ! ですわ!」

 うわ……もう一人はいかにもお嬢様っぽくて、すっごくイヤな感じ。

 しっしって、今どき言う? うちの猫さんにも言ったことないよ。

 あたしが渋々トラックを出ようとしたそのとき、「こんにちは」と、背後から声をかけられた。

 前髪で目が隠れた黒髪ショートの女子。確か、木葉と同じクラスの子だ。

「友達とは仲直りできた?」

「う、うん。えっと……」

「小鳥遊(たかなし)凛音(りんね)よ」

「あ……あたし、星野真白。小鳥遊さん、陸上部だったんだ」

「私はマネージャーだけどね。今日は見学?」

「うん、友達……南雲さんの練習を見たくて、少し立ち寄っただけなんだけど。立入禁止って知らなくてさ、西園寺先輩に怒られちゃった」 

「そぉ、友達って南雲さんだったのね。実は……」

 小鳥遊さんによると、西園寺先輩は走り高跳びの選手で、夏の大会の選手選考からもれてしまって、補欠になったらしい。 

「一年生の南雲さんが選手に選ばれてから、先輩はなんだか彼女にキツく当たるようになってしまったわ。取り巻きの小西さんは、いつもあんな感じだけど」

「……そうなんだ」

 それって、つまり木葉に対して嫉妬してるってことなのかな?

 これは帰ったらソラたちに話してみる価値があるかも。

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