第8話 【親友救出!】

 突然の出来事にあたふたしていると、

「真白! そのアーチェリーでコイツを撃て!」

 ソラが叫んだ。

「は……はいぃぃ? いやちょっと待ってぇ! 撃て? あたしがぁ?」

「そうだ、そのアーチェリーはお前のポジティブが具現化した『レア・ポジティバー』だ。それならネガパウダーを無効化出来る!」

「ちょ、ちょ、どゆこと? レアなんとかってなに?」

「いいからさっさと撃て! 俺のカードたちは長くもたない!」

「撃てって言っても、アローが……矢がないもん!」

「それは、お前自身が創り出すものだ。願え! 強く願え! 南雲木葉を……親友を救いたいのなら!」

 あたしは、ソラの言う通り強く願った――

 すると、あたしの右手の中に光輝く弓矢が現れた。

「で……出ちゃった」

「真白!」 

「う、うん!」

 あたしは矢を銀色のアーチェリーにセットアップした。

 そして、ネガ・シュシュに狙いをつけて思いきりリリース、矢を放った――

 でも、矢はネガ・シュシュの頭の上を通り抜けていってしまった。

「シュ、シュシューン! お前なにしてるシュシュー! 後ろから攻撃するなんて汚ないシュシューン! もう怒ったシュシューン!」

 怒ったネガ・シュシュは、カードを払いのけながらソラに向かっていった。

「くっ!」

 ギュイーン!

 ネガ・シュシュのノコギリ頭が高速で回り出した。

 ソラは両腕をつかんで攻撃を防ぐ。

「真っ二つにしてやるシュシューン!」

 あぶっ! 危ない! このままじゃソラが大ケガしちゃう!

 あたしはもう一度矢を手の中に出した。


 ……セット、落ち着けあたし。落ち着けば大丈夫……。


 あれ? 

 焦点が……定まらない? 

 なんで、なんでこういうときに限って!

 利き目(マスターアイ)がかすんで、ターゲットに集中出来ない。

 あたし、緊張してる? どうしよう、どうしよう! ソラが大ピンチなのに!


 いつもそうだ――


 アーチェリーの大会の時も、ここぞというときに集中力が欠ける。だからあたしは……。

「真白、邪念を払え。集中するんだ」

「集中って、どうやったら集中出来るの!」

「南雲木葉のことだけを考えろ」

 ソラの言葉は、あたしの全身を電流のように駆け巡った――

 木葉といっしょに夏祭りに行きたい。

 木葉といっしょに海に行きたい。

 今年だけじゃない、来年も、再来年も、高校生になっても、大学生になっても、大人になっても、ずっと、ずーっと、木葉と仲良しでいたい。

 あたしは、木葉が大好きなんだっ!

 そのとき、ネガ・シュシュの身体が透けて見えた――

 なんだろう? あの黒くモヤモヤした影。もしかして、あの影を狙えばいいのかな。

 木葉のことを考えていると、呼吸が落ち着いてきた。

 さっきまで、ドクンドクンと耳のそばで聞こえていた心臓の音も、今は全然聞こえないし、視界が澄みわたっている。

 今だ――

 あたしは弦をゆっくりと離した。

 放った光の矢は、目にも止まらぬ速さで、黒いモヤモヤに命中した。

「シュ……シュシュシュシュシュシュシュシュ――――――ン」 

 その瞬間、ネガ・シュシュはキラキラとした無数の光のつぶとなって姿を消した。

「やった……」 

 ――倒した……。あたしがネガ・モンスターを倒したんだ! 

「真白、よくやったな」

「うん、ソラのアドバイスのおかげだよ」

 あたしは猛ダッシュで、木葉のところへ駆けよった。

「ん……んん。ま……真白?」

 目をさました彼女は、不思議そうにあたしを見つめる。

「どうしたの? なんで泣いてるの?」

「なんでって……散々心配させておいてよく言うよ」

 彼女は花が咲いたみたいな、やわらかな笑顔をあたしに見せた。

「笑ってよ、真白は笑顔しか似合わないんだから」

「は……ははは、あはははは……嗚呼ぁぁぁぁあああああああああん!」 

 あたしは十三年間で一番大きな声をあげて、思いきりギャン泣きした。



「カラフルにシェリフる、ブラックにクロコ……なんか、おとぎ話みたいなことになってるねぇ」

 帰宅して今までの出来事を説明すると、木葉は目をパチクリさせた。

 ソラはお母さんと同じように木葉の記憶を書き換えようとしたけど、あたしはそれを止めた。 

 彼の能力『記憶改ざん』は、シェリフるの任務をスムーズにこなすための手段だって、あたしも理解してる。

 でも、木葉にだけは嘘をつきたくないから。

「真白、話してくれてありがとう。あたし、信じるよ」

「うん……うん」

「もう泣かないの。真白が泣くと虹色町が暗くなっちゃうよ?」 

 久しぶりに木葉と仲良く話せた気がして、あたしの目にまた涙が浮かんだ。

 ホント……ソラとイロハが協力してくれたおかげだ。

「ねぇ、ソラ。坂本くんも、木葉も元に戻ったし、これで一件落着だねっ!」

「いや、この事件はまだ解決していない。これから本格的な捜査に入るんだ」

 ソラは真剣な顔を木葉に向けた。 

「南雲木葉、少し話を聞かせてくれないか?」 

「はい、大丈夫です」

「お前があのシュシュを身につけたのはいつだ?」

「えと……四日ぐらい前かな。走高跳びの練習が終わったあと、部室のロッカーにプレゼントが入ってたんです」

 木葉によると、『大会がんばってください』というメッセージとともに、黒い箱がロッカーに入っていたんだって。

「……なるほど、南雲木葉は一年生にしてファンがついている。それを利用した手口か」

「え? それって……どゆこと?」

「この事件の首謀者、クロコは虹色中学校に潜伏している可能性が高いってことだ」


 木葉がお家に帰った後、あたしとソラ、イロハの三人は、クロコを捕まえるための作戦会議をした。

 ソラの提案した作戦には正直びっくりしたけれど、クロコを捕まえるためには必要なんだって。

 就寝前、あたしは木葉にラインでおやすみメールを送信しようと、スマホを開いた。 

「……あは」

 ずっと既読にならなかったメッセージに既読がついていた。


【真白大好きだよ!】既読済み

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る