第2話 【シェリフる? 宇宙人?】
「あーしはイロハっす! で、このお方はソラ先輩っす!」
「イロハ? ソラ?」
「さっき、そこで木の板に乗ってプカプカしてたミャオっすよ~。ほら!」
イロハは、右手首につけている赤いリボンを見せてきた。
――え? ええっ? コレってもしかして……?
「ミャオにあげた首輪……?」
「そうっす! この前つけてもらったリボンっす! めっちゃお気にっす! あーしらは、とある理由で猫に擬態してたんすよ!」
「ギタイ?」
「変身してたってことっす! あ、そうだ。もう元の姿に戻ったから、これをこうして……」
彼女は、リボンを片方のツインテールに結びつけた。
「どうすか? 似合うっすか?」
「……う、うん」
「嬉しいっす! 真白ちゃん、本当にありがとうっす!」
「え……なんであたしの名前を?」
「やだなぁ~、初めて会った時に『あたし真白、よろしくね!』って言ってたじゃないすか。しかしあれっすね、キャットフードっていう食べもの、最初は抵抗があったっすけど、なれてくると中々イケるっすね! ね、ソラ先輩!」
理解が追いつかないよ……。この女の子、イロハがミャオで、ソラがクーってこと?
だまって話を聞いていたソラは、「イロハ」とつぶやいた。
「はいっす!」
「しゃべりすぎだ。まったくお前ってやつは……まぁいい、俺から説明しよう。俺たちは銀河系保安官、通称シェリフるだ。カラフルという星からやってきた」
シェリフる?
カラフル?
はい?
「え……ええっと、それはつまり、あなたたちは宇宙人ってこと?」
「ざっくり言うと、そういうことっすね!」
「……そ、そうなんだ。ハハハ」
多分、あれかな? ユーチューバーのドッキリ企画とかだ。うん、そうだ、きっとそうだ。
「お前……」
ソラがあたしの目をじっと見つめてきた。
宇宙人設定で、おかしなことを言ってたとしても、彼がイケメンなのは事実。だから、そんなに見つめられると照れちゃうよ。
「な、なによ?」
「どこの中学に通っている?」
「に……虹色中学校だけど」
「……そうか」
――なになにっ? あたしが通ってる中学、聞いてどうするの?
そのとき、「真白~」と、背後からあたしを呼ぶ声が聞こえた。
馴染みのあるやわらかな声。とっても安心する声だ。
「木葉!」
「境内探してもいないから心配したよ~。今日はこんなところでなにをしていたの?」
この子は猫乃手神社の一人娘、南雲木葉(なぐもこのは)。あたしの幼なじみで、同級生。そして一番の大親友!
ショートカットのあたしとは対照的に、長い黒髪を結わえたポニーテールがチャームポイントなんだ。
「あ、あのね」
あたしは木葉に耳打ちした。
「……後ろの二人組ね、なんかおかしな人達なの。自分たちのことを宇宙人だとかなんだとか」
「二人組? そんな人達いないよ?」
あたしは恐る恐る後ろを振り返る。
「……あれ?」
木葉の言ったとおり、そこには誰もいなかった。
☆
いつの間にかいなくなった二人が気になって仕方がないけれど、このままここにいたら遅刻しちゃう!
木葉と一緒に神社の石段をおりながら、あたしは町並みを見渡して気持ちを切り替えた。
この虹色町は、山や川が広がるのどかな町で、季節ごとにきれいな景色が楽しめるんだ。
特に桜の季節には観光客がいっぱいで、桜並木道は大にぎわい。
あたしは元々東京に住んでたんだけど、とある理由で小学校一年生の春、この虹色町に引っ越してきた。
ある日のこと、一人で町を散策していて道に迷っちゃったんだけど、山の中で一匹の白い猫さんに出会ったんだ。
その白猫さんは、あたしを案内するように前を歩いてくれて、ついていって気付いたら猫乃手神社の境内にいた。
そして、そこで木葉と出会ったの。
だから、それ以来、感謝の気持ちを込めて、猫乃手神社の猫さんたちに毎朝エサをあげてるってわけ。
「ねぇ、真白。もう少しで夏休みだね!」
「うん! また今年も海水浴や夏祭り、いっしょに行きたいね! あ……でも確か木葉は大会があるんだっけ?」
「アハハ……運良くメンバーに選ばれちゃった」
中学に入って陸上部に入部した木葉は、一年生で唯一、走り高跳びの選手として、夏の全国陸上選手権大会に出場することになったんだ。
これにはあたしもびっくり! 飛び跳ねて喜んじゃった!
「じゃあ、大会が終わるまでは遊べないね~。でも、絶対応援に行くから!」
「ありがとう。とっても心強いよ。そう言えば、真白も大会近いんじゃない? メンバーに選ばれるといいね」
「うん! あたしも木葉に負けないように、がんばって選ばれるよ!」
「真白は毎日ちゃんと練習してるから大丈夫だよ」
「ありがと! あ、急がないと遅刻しちゃうよ!」
あたしは木葉の優しい言葉が照れくさくて、駆け出した。
ホント、いっつも優しいんだから。
学校に到着したあたしは、木葉といったん別れて、自分のクラスへ向かった。
あたしが通う虹色中学校は、きれいな芝生が映える校庭と、町のシンボルでもある虹をモチーフにした明るい校舎が特徴の中学校。
あたしは 一年三組で、クラスメイトはみんな明るくて仲がいいんだ。
その中でも一番ポジティブで明るいのはあたし。まぁ、単に元気がありあまってるだけなんだけどね。
「はーい、みなさん、おはようございます。じゃあ、朝のホームルーム始めまぁ~す」
お団子頭がとってもカワイイ、担任の山田恋(やまだれん)先生は、勉強だけじゃなくて、色んな悩み相談にも乗ってくれる頼りがいのある先生。
ちなみに口癖は、
「絶賛恋人募集中!」
生徒にも大人気で、あたしも大好きな優しい先生なんだ!
「みなさ~ん、体調はいかがですかぁ? なにかあったら、すぐに相談してくださいね。私の恋の相談にも乗っていただけるとありがたいで~す」
和やかでアットホームな雰囲気の虹色中学だけど、実は最近ちょっとした『事件』が起きていたりする。
ひそひそ話が近くの席から聞こえてきた。
「……ねぇねぇ一組の坂本くん、まだ学校来てないの?」
「あー。なんかぁ、噂だと、どんどんひどくなってるらしいぜ、坂本のやつ」
一年一組の坂本くんは、木葉と同じクラスメイトで、文武両道、まさに非の打ちどころのない超優等生。
そんな彼が、先週から突然不登校になった――
いったい彼に何が起きたのか? って、全校生徒の間でちょっとしたミステリーになっちゃってる。
正直、あたしはこういうことで盛り上がっている人が苦手。
だって、家庭の事情や悩みなんて、人それぞれだと思うし、詮索するのは良くないよね。
それにしても、今日は朝からてんやわんやだったなぁ。シェリフる……だっけ? 宇宙人設定とか、ユーチューバーにしてはベタだよね。
――でも、あの二人が本当に猫さんにギタイしてた宇宙人だったとしたら……。
ははっ! そんなことあるわけないか。
教室の窓いっぱいに広がる、雲ひとつない青空を見つめながら、あたしはほんの少しだけ空想に浸った。
☆
放課後は小学生の頃から習っているアーチェリークラブへ。
木葉が言っていた大会っていうのは、アーチェリーの全国大会なんだ。
あたしの夢は、その大会のメンバーに選ばれること! っていうのもあるけど、もっと大きな夢がある。
それはいつかオリンピックで金メダルをとること!
……まぁ、そんなに上手くはないし、クラブの先生からは、
「真白は集中力がたりない」
って、いつもダメ出しされてるけどね。
でも、ずっと続けてたら夢は叶う! そう信じてがんばってるんだ。
これといった才能はないあたしだけど、前向きな性格だけは誰にも負けない。
どんな時もポジティブシンキング! なんてね。
「ふえぇ~……疲れたぁ」
みっちり二時間の練習のあとは、ご褒美の一口チョコ。
帰り道のコンビニで買うんだけど、一個だけにしてる。このあと、晩ごはんだからね。
「はわ~……おいし。やっぱ、練習後のチョコは神だぁ」
今日も今日とて、集中力についてダメ出しされちゃった。
確かに、アーチェリーは技術以上に集中力が大切。それは理解しているつもり。
だけど、どうしたらもっと集中できるんだろ?
だって、他の人が放つ矢のゆくえが気になっちゃうし、他のことも色々考えちゃう。
それに今日は、変な二人と出会っちゃったし……。
ホント、アーチェリーって自分との闘いだ。
「あ~あ、おなかすいたなぁ。今日の晩ごはんは、なんだろ?」
玄関を開けて、「ただいまぁ」と言うと、お母さんが出迎えてくれた。
お母さんの名前はすみれ。
自宅の離れでやってる保護猫カフェ『猫国屋』のオーナーをしてるんだ。
「ねぇ、真白ちゃん聞いて聞いて~」
「なぁに?」
「さっきね、新しい猫さんを保護させてもらったの!」
「へぇ~、どんな感じの猫さん?」
「一匹は茶トラの子猫さんでぇ、すっごく人なつっこいの。もう一匹は、銀色の猫さん。とってもクールで、思わず一目惚れしちゃいそうになっちゃったぁ」
「……え?」
それって、もしかして……?
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