第9話 浴衣お姉ちゃんとごはん ~ぐつぐつお鍋~
:◆SE 食事中の食器の音。鍋が煮える音
「うわーっ、これ、おいしいよ?」
「地元名産のお肉を使ったすき焼き……いつも食べてるのもおいしいけど、こっちの味とは比べられないよね」
「ん? どうしたの?」
「距離が近いって。もう、またそんなこと言って」
「せっかくキミと一緒に食べるんだから、ぴったり隣にくっついて食べた方がいいでしょ?」
「大丈夫? 一人で食べれる?」
「お姉ちゃんが食べさせてあげようか?」
「お鍋だから、熱いでしょ?」
「あ、そう……いらないんだ」
:◆SE 咀嚼音
「 (リスナーをモノ言いたげにじっと見ている呼吸音) 」
「……えっ、いいの?」
「ふふ、キミもやっぱり、まだまだお姉ちゃんに甘えたいんだね?」
「じゃあ、この地元名産のお肉を、キミに食べさせてあげる」
「熱いから、ふーふーしないと……」
「ダメだよー、これやらないとキミがやけどしちゃう」
「舌がやけどしたら、味がわからなくなってせっかくの美味しい料理が台無しになるんだよ?」
「だから、ふ~、ふ~」
「ふ~」
「うん、もういいかなぁ」
「はい、どうぞ~。あ~ん」
「ふふ、キミのお口に入っちゃった」
「どう? お味は?」
「お姉ちゃんの優しさがプラスで、ほんのちょっと甘みが増えたんじゃない?」
「はぁ……もぐもぐしてるキミも、かわいい……」※ため息
「昔は、おっぱいしか飲めなかったのに……立派になって」
「あの頃ね、キミのお母さんが羨ましくて。わたしもキミにおっぱいあげられたらなぁって何度思ったかわからないよ~」
「え? 思っただけだよ~。本当にあげようとするはずないでしょ~?」
「……ホントダヨ?」
「も、もうっ! そんなにお姉ちゃんが信用できないかなぁ! 見ての通り、しっかり者のお姉ちゃんなんだから節度くらいわきまえてるよ」
「そうだよ。わかってくれたかな?」
:◆SE しばらく咀嚼音
「どうしたの? 地元名産の美味しいお肉をこっちに寄越そうとして」
「さっきお姉ちゃんの分のお肉食べちゃったからって?」
「自分だけじゃなくて相手にも分けてあげられる立派な子になって……」※涙声
「わかった、キミの好意に甘えちゃうね!」
「え、キミが、あーんってしてくれるの?」
「ちょ、ちょっと……あの、キミの前で大きな口開けるのは……恥ずかしいかも」
「ほら、お姉ちゃん、大人だし……」
「ああっ、ふーふーしてる!」
「キミにそこまでさせて! 食べないとわたしが悪者になっちゃうパターン!」
「わかった、食べるよ。キミに食べさせてもらう。でも……」
「お姉ちゃんの、その、歯並びが綺麗じゃなくても笑わないでね?」
「だってぇ~、お口の中、歯医者さん以外の人にじっくり見られたことなんてないんだもん~」
「うん、うん、あんまり見ないでね? それじゃあ……」
「あ~ん」
:◆SE 咀嚼音
「ふぁ~、おいしい~」※うっとりと
「キミのお肉ぅ、すっごくおいしぃの~」
「ふふ、なんか恥ずかしいね」
「お姉ちゃんなのに、キミに食べさせてもらっちゃうなんて」
「ん? なぁに?」
「……は、歯並び、そんなに良かった?」
「じゃあこれからは、いっぱいお姉ちゃんの歯、見せてあげちゃおっかな」
「なんてね」
「今度はお姉ちゃんが食べさせてあげるターンね」
「このしいたけもね、地元で取れるおいしいやつなんだって~」
「はい、あ~ん」
「ん? どうしてお口を開いてくれないのかな?」
「べ、別に嫌いなものを押し付けようとしたわけじゃないよ?」
「純粋に、キミに食べてもらいたかっただけなんだから」
「えぇ? じゃあ食べて証明してって?」
「……」
「……」
「ごめんなさい、参りました」※低い声で
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