第3話

 外は陽が沈みかけていたが、敷地内の電灯のお陰で不自由はなかった。病院に出入りする人は少なく、バスが来るのを待つ人が数人いた。

 駐輪場に向かっている時、電灯の下に人が立っているのが見えた。

 その顔に見覚えがあった。同じ学年の須賀卓也だった。

 柔道部の卓也の背は進とあまり変わらないが、その体格には重量感がある。短髪の髪はガチガチに固めており、電灯の明かりに鈍く光っている。


 電灯で体を隠し、病院の上の階を見上げている。まるで見張りをしている警察のようだった。

 進が近づいてくることに、相手が気付いた。進の制服に視線が向き、続いて進の顔を見た。

 すれ違いざまに、卓也はチっと舌打ちをした。進はそのまま通り過ぎようとしたとき、背中に、おい、と声を掛けられた。

 進は足を止める。振り返ると、卓也が睨みつけるようにこちらを見ていた。進はそれを挑発と受け取った。進も力を入れて相手を見る。

「何だよ」

 二人の間に緊張が走る。ろくに話したことは無かったが、顔と名前は知っていた。

「お前、柳のところ、行ってたのかよ」

 一言一言吟味しながら言葉をひねり出していた。苛立ちを含んだ落ち着かない様子で、進の様子を伺っている。

 何故竜太のことを聞いてくるのか、進には分からなかった。竜太と卓也がクラスメイトを超えた関係であるとは思えなかった。一緒にいるところを想像したけれど、あまりにも現実感が無い。

「そうだけど、お前に関係ないだろう。ていうか、何でここにいるんだよ」

 そう言った時の卓也の表情が不快に歪んだのを、進は見逃さなかった。

 そのことは次の邪推を呼んだ。それを進は声に出していた。

「竜太が川で溺れたこと、何か知ってるんじゃないのか?」

 進は卓也の目を捉えた。わずかに動揺が宿る。卓也は一歩詰め寄って口を開きかけたが、何かを思い出したというように口を結んだ。

 今度は進が、一歩踏み出す。相手の息遣いが耳に届く。

「お前、何かしたんだろ」

 最後はほとんどそれが真実であるかのように話していた。それ以外に、卓也がここにいる理由が存在しなかった。

「お前に関係ねぇよ!」

 と半ば叫ぶように言って、卓也は病院の出入り口へ歩いて行った。

 その後ろ姿を見ながら、進は確信した。


 卓也は、何かを知っている――

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