第6話 能力の証


「では話を戻します。その三人の誘拐された人物は、現実世界で自殺を考えていた人の一部なのです。彼らを特殊な夢の中で救う能力を、私はあなたに授けたのです」


 鵜飼うかいは乾いた唇と共にそれを聞き入れる。


「その能力を使って、あなたが夢の中で自殺者を救えば救うほど、鵜飼穂苗ほなえの蘇りに近づくのですよ。ここまで分かりましたか?」


  神崎かんざきは首を少し傾げながら、鵜飼の顔を覗き込んだ。


「何となく……分かったよ……。でも本当に……穂苗は蘇るの?」


「ええ、確実に」


 即答した彼女から、自信の突風が吹きすさんできた。


「何か……契約させるとか、宗教とかそういう……」


「一切ございません」


 神崎はきっぱり言い切った。


「……分かった……君のこと、信じるよ……」


『穂苗の蘇生』を祈ってもうすぐ一年。


 キリの良いところで何かは起こる……。


 そう信じたタイミングで、『穂苗の蘇生』は必ず実現すると言い張る神崎とのが始まった。


 これを偶然と片付けることなど、できるはずがない。


 いや、むしろ偶然と考える方が逆に間違いであり、神様が贈ってくれたご褒美と考える方が自然といえよう。


 それほど鵜飼にとって、神崎との接触はタイミングが良すぎていた。


「じゃあ僕は、具体的に何をすればいいの? 何をすれば、穂苗を蘇らせることができるの?」


「まあそう焦らないで下さい。あなたにはまず、沢山の自殺者を救ってもらう必要があるのです」


 言うと、神崎は鵜飼の右手を指差した。


「あなたの右手人差し指に、たった今、能力者となった証を具現化しました」


 ハッと、鵜飼は己の右手人差し指を確認した。


「な……何……これ……。いつの間に……」


 右手人差し指には、いつの間にか黒いテープが隙間無く巻き付けられていた。

 一般的なセロハンテープぐらいの幅で、ゴツゴツとした手触りがある。


「これは一体……」


「そのテープは、あなたが自殺者を救えるようになった証です。自殺者を救えるようになったことを強く自覚してもらうため、具現化させていただきました」


「……そ、そうなんだ……。でも、ちょっと邪魔かも……」


 鵜飼は爪を使って黒いテープをいじったが、全く剥がれそうにない。


「特定の人にしか見えませんし、無害なので大丈夫ですよ。鵜飼穂苗が蘇るまで剥がせませんし、剥がれません」


 それを聞いて、鵜飼は黒いテープをいじるのを止めた。


「今日はここまでにしておきましょう。自殺者を救うことができる特殊な夢の詳細については、来週の金曜日にあなたが見る『夢の中』でお話しさせていただきます」


 言うと、神崎はドアの方に手を差し伸べた。


「ではもう帰っても良いですよ。お疲れ様でした」


 その前に、もう一度確認しておかなければならないことがある。


 鵜飼は深呼吸してから、神崎と目と目をしっかりと合わせた。


「本当に……本当に、穂苗は蘇るんだね?」


 神崎はゆっくりと頷いた。


「本当です。あなたがこの先、私の指示に従えば、必ず」

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