夢の中の誘拐事件
ハトノショ
【第1章】 動き出す希望と、目覚める本能
第1話 能力授与の夢
『
黒板の中央には、赤いチョークでそう書かれている。どれも聞いたことすらない名ばかりだ。
「何で僕はここに居るんだっけ……」
気付けば、
他には誰も居ない。静まり返ったこの教室は、約一ヶ月前から通い始めた高校の教室。着ている制服も、通う高校のものだ。
「なんだかな……」
ひとまず廊下に出てみたが……。
どの教室にも人は居らず、気配も感じられない。学校自体が静まり返っている。
「何で誰も居ないのかな……。そもそも何で学校に居るんだっけ、僕……」
休みの日に間違えて来た覚えもないし、人を消し去る呪文を唱えた覚えもない。
鵜飼は途方にくれ、近くの壁にもたれた。丁度その時、廊下の先から制服姿の男子がこちらに走ってきた。
その人物は、遠くから見ても美少年と分かるほど綺麗な顔立ちをしていて、オシャレにカットされた髪を優雅に揺らしながらこちらに走ってくる。
親しみ深い人物だったので、遠目に見ても彼が
「藤井……」
孤独から解き放たれ、鵜飼は思わず口元を緩めていた。藤井は鵜飼の真正面で立ち止まると、いつもの調子でフッとキザに笑った。
学ランの第一ボタンとフックまできちんとかけている鵜飼とは違い、藤井が学ランの前ボタンを全て外して、中の白シャツを露わにしているのもいつも通り。
藤井は中学時代からの親友だ。
万年インドアな趣味(読書や映画鑑賞など)に走っているため、男にしては華奢で頼りない体型をしているが、そんなもの『超』が付くほどの美少年の藤井には毛ほどのマイナスにもなっていない。
「とりあえず藤井が居て安心したよ」
鵜飼はホッと胸をなで下ろした。
「学校には誰も居ないようだし、教室の黒板に何か書かれてたんだけど……。渡辺義人……とかいう人たちが誘拐されたとか……。藤井は何か知ってる?」
「凄まじい二ノ宮金次郎だ!」
突然、藤井は無表情で意味不明なことを叫んだ。普段の藤井なら考えられない挙動に、鵜飼は苦く笑うことしかできなかった。
「えと、急にどうしちゃったの? 藤井……」
反応に困っていると、ジリリリ! という甲高い轟音が辺りに鳴り響き、同時に鵜飼の視界が暗転した。
ゆっくり目を見開くと、薄暗い天井が見えた。
「夢……か……」
鵜飼はボーッとする頭を抱えながら、ベッドから体を起こした。辺りを見渡すと、そこは常夜灯で照らされた部屋だった。
ジリリリ! と鳴り響く中、ここが実家ではないことを、鵜飼は強く自覚し始める。
「そうだっけ……」
高校入学と同時に一人暮らしを始め、ゴールデンウィークを経て約一ヶ月が経過した今でも、実家の自室ではないマンションのワンルームに違和感を覚える朝がある。
その度に一種のホームシックなのだろうかと、己の自立心を疑う鵜飼なのだった。
『ジリリリリリリリ!』
しつこく鳴り響く目覚まし時計に、鵜飼は這いながら到達。次にボタンを押して黙らせた。時刻は午前七時を回ったところ。
休みの土曜日でも、鵜飼には早起きしなければならない理由がある。
鵜飼は寝間着姿(灰色の長袖長ズボン)のまま、洗面所で顔を洗ってスッキリした後、勉強机に座って遺影を立てた。
遺影には、たれ目でおっとりとした感じの顔立ちをした、セミロングヘアの女子中学生。
鵜飼の妹、鵜飼
「おはよう、穂苗」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます