第9話
本格的に文化祭準備が始まってきて部活に行ける時間が減ってきた。時間が減ったのは哀翔くんも同じだけど、私はそれ以上に時間がない。学級委員と先生からゴリ押しされて、クラス代表になってしまったからだ…。ただでさえ、部活の方の展示もあるから忙しいのに…!こんなんじゃ自分が回る時間なんてないじゃん…。一人教室で、クラスの出し物について生徒会に説明する資料を準備していると、カタリ、と扉が開いた。
入ってきたのは、案の定哀翔くんだった。哀翔くんは教室に入った足を止めることなくこちら側に歩いてきた。
「お疲れ様、差し入れ持ってきたよ。」
頼んでないのに、自然とこういうことができてしまうのだから不思議だ。流石イケメン。と心の中で賛賞しながら差し入れを受け取る。
「え、これ……」
渡されたそれは私がよく飲んでいる、高校の自販機にあるコーヒー牛乳。別に私はこれが好きって、哀翔くんに言ったことはない。
「いつも美味しそうに飲んでるから。」
ああ、そうだった。この人はそういう人だった。人の事をよく見ていて、些細な事にもちゃんと気付ける。
「ありがと、」
「…そうだ、あとどのくらいで終わる?」
「あと十五分くらいかな。」
そう言うと、さっと隣に座って作業を手伝ってくれる。どこまでイケメンなんだこの人は。
「このイメージ図、自分で描いたの?」
「あ、うん。自分で描いたよ。」
「すご、人工知能研究部の勧誘ポスターとか描いて欲しいくらいだわ。」
きっとお世辞なんだろうけど、時間ができたら描いてみようかな。好きなものを描けるんだから、力を込めて描きたい。
雑談をしながら二人で進めていれば、生徒会に提出する資料の準備はあっという間に終わった。あとはこれを提出すれば良いだけ。
「…ホントに助かった!」
「うん、提出して来な、部活行くぞ。」
「わかった、先行ってて!」
その言葉を最後に、私は教室を飛び出し、書類を提出しに生徒会室に急いだ。
肩で息をして、大急ぎで呼吸を整える。深呼吸して整ったところで生徒会室の扉をノックする。
「入っていいですよ。」
「…あ、ありがとうございます。」
名乗る前に部屋に通された。促されるまま入室して書類を生徒会長に渡す。初めて見たかもしれない。
優しそうで、面白そうだけど、真面目そうな人。生徒会長は書類をパラパラとめくって読んでいる。
しばらくして、生徒会長が声をかけた。
「ねぇ、予算足りるの?」
「えっと、予算は抑えられるように工夫してて…」
あれ、書いてなかったっけ…?忙しすぎて記憶ないけど…ちゃんと書いてるかな。
「一応書いてあるんだけど、詳しく聞きたいな。」
「……カフェの衣装は基本的に制服の上に不織布のカフェエプロンを着用予定です。メイド服に関しては、みんなの持っているワンピースの上から白のフリルエプロンを着用します。」
…確かこれであってたよね。どうしようめちゃくちゃ不安なんだけど!
「…うん、合ってる。それで装飾は?」
基本的に段ボールを積み上げて、あとは伸縮棒を使って、カーテンみたいにするんだよね。
「…段ボールを積み上げて道を作って、黒いビニールを被せて迷路にします。カフェブースの方は黒板アートと百円ショップのフリルカーテンを使って写真が撮りたくなるような背景にします。」
「うん、フォトスポットにもなるんだね。」
中々の長文だったと思うけど、ちゃんと聞き取れて分解できるの凄いな……。国語苦手だから結構そういうの羨ましいかも。
「じゃあ、受理しました。」
「…ありがとうございます!失礼しました!」
生徒会室を飛び出して、部室に急ぐ。部活の方の展示準備もしなきゃ!
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