第8話


 久しぶりに夏海と帰ってから一週間。高校は二学期に変わって、文化祭の雰囲気が立ち込めている。

もちろん、私も文化祭にはワクワクしている。人工知能研究部のブースと、クラスの出し物と、二つを掛け持ちしてやるなんて絶対忙しいし楽しいはず。   

 ここの文化祭に来ると恋が叶うなんて言われているものだから、毎年毎年人が多すぎて大変になるということで、今年から三日間開催するらしい。金曜、土曜、日曜。前は土日開催で日曜日は午前中だけだったらしいけど、今年は三日間の日曜日も午後までやるらしい。超豪華文化祭。やばい楽しみ。

 今は昼休みだけど、昼休みが終われば五時間目はクラスの出し物を決める時間。私は思い付かなかったけど、周りがメイド喫茶とか、フォトスポットとか話してたから、そこらの出し物に収まるのかも。

 程なくして、昼休みから五限に切り替わるチャイムが鳴って、担任が教室に入ってくる。日直が号令をかけ、先生が口を開く。

「朝の連絡で伝えていたが、この時間は出し物を決める時間だ。」

すでにざわついている教室内を見渡してもう一言言った。

「内輪ノリだけで決めるなよ、ちゃんと話し合え。」

それだけ言い残して、先生は教室の後ろに行った。入れ替わりで学級委員が前に出て、意見がある人は挙手を、と呼び掛けた。


 そこから数分、ひと通り案は出揃ったらしいが、どうもまとまらなさそうだった。

黒板には

『メイド喫茶』

『迷路(お化け屋敷)』

『フォトスポット』

『相性占い』

『カフェ』

『寸劇』

という文字が書かれている。

「カフェとメイド喫茶はまとめられなくも無いけど、カフェの人はメイド要素がいらないから、コンセプトカフェって形で、メイド服もいれば、普通のカフェ店員もいる感じにできそうだね。他に何かまとめられるもの無いかな?」

シーーーン…。

学級委員かわいそうだけど、流石にまとめられないよね。それに、まとめるってことは、自分のやりたいものを無くすことになるかもしれないから嫌なんだろうな。男子はお化け屋敷、女子は映え、恋愛、可愛さ重視で割れるしね…。とそこで、哀翔くんが肩をちょんちょんと叩いてきた。

「ん?」

哀翔くんの方に振り返れば、コソッと私の耳に話される。

「あのさ、基本を迷路にして、その中に相性を告げる人とか置いて、ゴールをカフェにして、そこで写真も撮れるようにしたらどう?」

「それ良いね、……けど寸劇はどうするの?」

「設定を作り込んでおけば、寸劇要素は出るし、スタート地点の説明とか、割と寸劇じゃないかな?」

確かに、そうすれば全部の要素を入れられるかもしれない。

「提案してみた方がいいんじゃない?」

「うん、俺もそう思う。」

先生も学級委員も困ってるもんね…、と思っていると、哀翔くんが声を上げた。

「ねえ、海月が案良い案持ってるよ。」

「ほんと?…聞かせてくれる?」

「え、え、ちょっと!」

慌てて哀翔くんを見るが本人は知らん顔。そのすました笑顔を見て、いつかちょっとした仕返しをしてやろうと誓った。

「全部まとめたら、良いと思います。」

「全部まとめる?」

もはやこれ、学級委員との一対一の会話なだけじゃん!

「全体を迷路にして、ゴールはカフェとフォトスポット、迷路の途中に、きた人の相性を告げる人とかを……。」

「なるほどね、確かに良い案だけど、予算と場所はどうするの?教室じゃ流石に狭いよ。」

う、……そうだよね、予算が無限なわけじゃないんだもんね。何かコストカットできる部分はないかな…、そういえば、双子コーデは文化祭のコスト削減にも良いって…。

「……カフェの衣装は、みんなの持ってるワンピースで、エプロンだけ買えば抑えられると思う。相性を言う人は、黒いマントを上から着れば、カフェもどっちもできるし…。」

人って切羽詰まった時の方が頭回るのかもしれないな、と思いながら、話を続ける。

「場所は、二つの教室をうまく繋げられれば、、」

ただ、それをどこでやるかだよね……。

「じゃあ、この教室と進路室、前の扉同士で繋げても良いぞ。」

悩んでいたら、先生が助け船を出してくれた。そういえばこの先生、進路担当やってたか。

「進路室のソファそのまま使えないかな?」

「じゃ、進路室をゴールにしようぜ。」

教室内でちらほらと聞こえるそんな声。

うまくまとまって力が抜けてどさっと椅子に座る。

「海月ナイス、文化祭頑張ろうな」

「…うん!」

思わず返事したけど、私が話すことになったの哀翔くんのせいだよね。

頭の片隅でそんなことが一瞬過ぎったけど、頭の中はすぐに文化祭の出し物について考えてだしていた。

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