第6話
なんでよりによって、月曜日から日直なんてものになってしまうのだろう。月曜日なんて特に起きられないし、起きたとしても頭は働かない。
まぁ、でも哀翔くんと日直の仕事をするならきつくてもいいか。それに私と哀翔くんが話したときに他の女子から向けられる視線や、ヒソヒソと聞こえる話も怖くない。だって日直だから一緒に仕事する上で話さないといけないこともあるでしょ。だから今日だけは周りも大人しいはず。
学校に着き、職員室で教室の鍵と日誌を取って教室に向かう。哀翔くんはまだ来ていないみたいだった。けど、もしかしたらあの時みたいに部室の方にいるのかもしれない。
日直だから夏海と一緒に行けなかったからだろうか。それとも朝起きてからほとんど喋るという行動をしていないからだろうか。誰かと無性に話したくなった。
だんだんと薄暗くなっていく廊下を歩く。この角を曲がれば部室。哀翔くんはいるかな…。いなかったらどうしよう。少しの期待と少しの不安を抱えて廊下を進む。
ガララ、と音を立てて開く部室。中にはいつものように奥のキャスター付きの椅子に座った哀翔くん。ただ、まぁまぁ大きな音が鳴ったのにもかかわらず、哀翔くんは振り返りもしない。
「哀翔くん…?」
不思議に思ってそっと声を掛けるも、反応はない。そのままゆっくりと近付いて、哀翔くんの姿を覗くと、彼は寝ていた。
「……寝てる?」
寝てるだけならもう少し寝かせて起こそうと思ったけど、左腕がおかしい。よく見れば、左腕は血圧計のようなものに突っ込まれていた。ピッピッと無機質な音を流すそれは何処か不気味で。
「…哀翔くん、起きて。」
結果、私は肩を揺らして起こすことにした。
起きて、とか。日直だよー、とか。声をかけること二分弱。哀翔くんはゆっくりと目を開けた。
「……んー、」
「あ、やっと起きた。時間だよ。」
「…海月?……あぁ、おはよう。」
飲み込めているんだか飲み込めていないんだかよく分からない返答をしつつ、その血圧計のような機械の電源を切って腕を抜いた。
「その機械は…?」
「あぁ………えーと、睡眠時のバイタルとかを計測してくれる機械。試しに使ってたら爆睡した。」
…頭がいいのか悪いのか分からんな。
「とにかく、もう少しでホームルーム始まるから教室行くよ。」
「あ、そうだ。日直………。」
「鍵開けと日誌取りに行くのは私がやったから帰りは哀翔くんでいい?」
またガララと扉を動かして二人で廊下を歩く。
「…もう迷わなくなった?」
「広いからなんとも…けど、ここは平気。」
なんとなく会話が無いのは気まずくて、という感じで振られた質問に答える。この学校広い上に旧校舎まであるから三年いても覚えきれないと思う。
「…帰りの鍵はやるけど、何か用事?」
いつもは部活がない日でも部室にいる私が帰りたそうにしているのが伝わったのだろうか。
「今日、友達と一緒に帰れるんだ。」
「よく話してる夏海って子?」
「そう!部活ないから一緒に帰れるって。」
ちゃんと覚えていてくれたことと、久しぶりに一緒に帰れることが嬉しくて、どうしても笑みが溢れてしまう。笑顔になると気分も当然上がるもので。
「よし、一日がんばろ!」
「…そうだね。」
じゃあ、部室の鍵返してから教室行くから。と途中で哀翔くんと別れた。私はそのまま教室へと向かっていく。
そういえば、バイタル?とかを計測してくれる機械って答える前に少し固まっていたような気がする。いつもの哀翔くんなら以外のことは何でも即答するのに珍しいな…と思ったけど、人間そんなこともあるかと教室に入るころには抜け落ちていた。
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