第2話
学校に入ると、夏海はいつも通り下駄箱に向かったが、私は職員玄関へ向かった。転校生だから、一度職員玄関から職員室へ行って、私のクラスの担任と一緒に教室へ行かなければいけない。
職員室の場所は、夏休み中に来たときに覚えたから多分大丈夫。そして迷うことなく職員室へ辿り着く……と思ったのだけど、職員室へ行ったつもりが違う場所へ出てきていた。私立だからこその広さが悪さをした。どうしよう、迷った。生徒もいない、先生もいないようなここはどこだろう……。
そんなとき、少し向こうの扉から人が出てきた。 人も少ないし、私は転校生ときた。…話しかけるしか無いのか。一週間前から練習した笑顔を思い出し、こちらに歩いてくる人影に話しかけた。
「おはようございます。」
「…おはよ、こんなとこでどうした?」
思っていたより柔らかい返事を貰って、ほっと息をついた。何者かと思っていたけど、ただの高身長イケメンじゃん。しかも優しいなんて……。
「あー、その、転校生で迷ってしまって。」
「どこに行きたいの?」
そっとこちらを気遣うように覗き込んでくる仕草が洗練とされていて、嗚呼、この人は引く手数多な人気者なんだな。と思いつつ、会話を続ける。
「職員室です。」
「…そっか、俺もそこに行くから、連れてくよ。」
「あ、お願いします。」
……絶対先輩じゃん。あーぁ、同じクラスなら良かったのに。こんなに背も高くて声も聞きやすくてイケメンで優しい人、同学年にいるはずない。
職員室へ導かれながら、と言ってもほとんどついて行ってるだけだけど、道案内をしている彼と話をする。流石に無言は気まずいもんね。
「…海月ちゃんは九月からの転校生なんだね。」
「そうなんです、高校生で転入ってあまりいないので、ちょっと不安だなって。」
なるべく丁寧に、敬語を使って話す。
「ところで、なんで敬語なの?」
急に振り向かれてびっくりした。うん、やっぱり綺麗な顔。イケメン最高。私立最高。一旦脳内で考えていることをシャットアウトして話す。
「……いや、先輩にタメ口は良くないと思って。」
「一年でしょ?同い年じゃん。」
「…はぁ!?同い年ぃ!?」
驚きのあまりものすごい声を出してしまった。引かれたか…?と相手の様子を窺うと体を二つに折るようにして笑っていた。
「ふはっ、…面白すぎ、ふふ、、あー無理…、」
「ちょ、そんなに笑うことないでしょ!」
「いやぁ、面白いなぁ、海月ちゃんは。」
…思わずどきりとした。笑いながらイケメンに呼ばれる名前は破壊力が凄まじい。
先輩だとばかり思っていたからなんとなく聞いていなかったけど、同い年ならこれから関わるだろうしこの人の名前も聞くべきなんじゃないだろうか。
「あの、ずっと聞いてなかったんですけど、名前って……?」
なんですか?とも、なに?とも聞けなくて、結局尻すぼみになってしまった。
「来栖哀翔、あいとでいいよ。」
「えーっと、哀翔くん、…よろしく。」
流石にこの国宝級イケメンを名前呼び(呼び捨て)なんてできない……。
しばらく無言でついていくと、見覚えのある場所まで戻ってきた。職員室の前だ。
「あぁ、ほら着いたよ、職員室。」
「あ、ありがとう。」
ただついて行って歩いてたから、結局職員室への道は覚えられてない。そういえば、哀翔くんは何の用があって職員室に来たんだろう。
「…どうやったら正反対の端まで迷うのかな。」
「え、反対の端!?」
たしかに、職員室までやけに長いなーと思っては居たけど、まさか正反対だったとは。
「じゃあ、また後でね。」
「…あ、うん。」
そして職員室に入っていく哀翔くん。またねって一体どういうことだ。
「お、丁度良いタイミングだな。」
後ろから低い声が聞こえて、振り返ると私がこれから転入するクラスの担任だった。
「…先生」
「そろそろ行こうか。」
「はい!」
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