愛と呼ぶには程遠い。
夕凪
第1話
流行りのJ-POPミュージックの電話音によって目を覚ました。やっぱり流行りの曲を着メロにした方が目が覚めるな、と半分寝ぼけた頭で考えながら、スマホの応答ボタンを押す。
『海月、今日からでしょ!』
電話を耳に当てるとすぐ聞こえてきたのは、中学時代親友だった夏海の声。
「え、嘘遅刻!?」
『うっそー!初日だから可愛く行きたいでしょ?
早めに起こしてあげたんだから感謝してよね!』
おどけるような声につられてスマホの時間を見るとまだ家を出る予定まで一時間ちょっとある。
「めっちゃ可愛くして行く!!」
『はいはい、切るよー?』
「うん、また後でね!」
ツーツー、と電話が切れる音が聞こえた。
私は中学の頃、途中で転校してしまったけれどまたこうして地元に戻ってくることができた。九月からの転入だけど、夏海がいるから不安なんてない。
私は今日から、【恋愛成就度100%】と噂される私立高校に転入する。高校生は第一印象が鍵!とどこかのサイトで読んだのでバッチリきめて行こう。
鏡台の前に座って髪を梳かしていく。そこそこ長く伸ばされた髪は軽くコテで巻いてゆるふわウェーブに。メイクも過度じゃなければ許されるらしいので、リップの色に合わせたアイシャドウと、濃すぎないピンクのリップ。束感を出させた睫毛と控えめに引かれたアイライン。
「うん、完璧!」
自分の部屋から一階に降りて、朝食を食べる。
「あれ、海月、今日は早いじゃない。」
「だって初日だもん。」
お弁当を詰めているお母さんがこちらを見る。
それになんだか気まずくなって、朝ごはんを口に詰め込んだ。こんなにしっかり朝ごはん食べたのも久しぶりかもしれない。いつもギリギリに起きて、おにぎりだけ口に突っ込んで行く事が多かったから。
…たまには早起きもいいかもしれない。
お母さんがお弁当を詰め終わる頃、私もちょうど朝ごはんを食べ終わった。時計を見ると、待ち合わせの十五分前。余裕を持って出るならそろそろだ。
可愛らしいチェックリボンと、ネイビーブルーのスカートに着替える。お弁当や必要なものを詰めた通学カバンを持って家を飛び出した。
待ち合わせ場所に着くと、案の定夏海がいた。相変わらず待ち合わせ場所に来るの早いんだなーとか思いながら近寄る。
「夏海、おはよう!」
「おはよ、久しぶりだね。」
二人で話しながら駅へと向かって行く。
九月といえどまだまだ暑い。
「海月と会うのは中学以来だよね」
「うん、超久しぶり。転校しちゃったからね。」
なんだか昔に戻ったみたいだ。二人で話しながら行く通学路。中学時代はいつも一緒にいる上に名前と漢字が繋がっているからって【なつみつきペア】だなんてよく呼ばれていたっけな。
駅の改札を
「電車使わなきゃだけど、五駅だから。」
「……そっか、定期買ったほうがいいかな。」
チャージするのも面倒くさいんだよなぁ…。
「定期のが若干高いかもしれないね。」
「じゃあ今はやめとこうかな。」
そんな話をしながらホームで電車を待つ。しばらくして電車がやってきて、夏海につられるようにして私も乗った。
「やっぱ、朝は混むんだね、夏海。」
「もう少し早いと空いてるよ」
明日からは、もう一本早いのに乗ろう。早起きは苦手だけど、朝の人混みは苦手なのだ。
電車に揺られ、その後駅から歩くこと約十分。私と夏海は高校の正門に着いた。校門の前に立つと、夏海が向き直って言った。
「ようこそ!恋愛成就度100%の高校へ!」
そっか、私、ここに転校してきたんだ。
────私の第二の高校生活がまだ暑さの残る風と共に幕を開けた。
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