第十話

 約束した時刻の二十分前、待ち合わせ場所のバス停には、もう既にメンバー全員が揃っていた。誰もいないと思って、古びた待合所を覗いた時、ビックリして後ろに少し跳ねてしまい、みんなに笑われた。

 じっとしていられないほどワクワクしていたのは、私だけだと思っていたから、私は密かに、「みんなも同じだったんだ」と嬉しくなった。

「みんな早かったね。おはよー」

「はい、おはよー」

 真っ先に挨拶を返してくれた麻里ちゃんは、その活発な性格によく似合う、スポーツメーカーのロゴが入った薄手のジャンパーを着ていた。

「服、似合ってるよ」

 続いて由紀ちゃんに褒められる。一瞬、「このモサッとしたトレーナーが?」と思ってしまったが、黙っていた。

「ありがとう」

 彼女は、無地だけど高そうな真っ白いセーターに、大人びたブラウンのロングコートを羽織っていた。髪型も少しいじっていて、ロングヘアは崩さないまま、細く編んだ三つ編みを後ろの方に回している。

「徒花、来れて良かったな。じゃあ、先にバス賃を……」

 柔らかい笑顔でそう言うと、冴島君は財布を開き、小銭を数え始めた。由紀ちゃんがこんな気合の入った格好をしてきたのに対し、冴島君は普段と同じような服装だ。謎の英語と西暦が記された紺のトレーナーが、どこか親近感を誘う。

「はい、どうぞ。一応言っとくけど、『返済不要』だからな」

「ありがとうございます」

 手の平を広げて、冴島君からバス賃を受け取った時、偶然に手が触れた。その瞬間、由紀ちゃんから鋭い視線が飛んできたのを感じて、微笑ましく思うのと同時に、少し辟易した。まさか、今日は一日中、こんな感じなのか?

「それにしても、みんな早く来すぎちゃったな。さあ、徒花も座って」

「うん」

 麻里ちゃんに促され、座ろうとすると、それまで麻里ちゃんの横に座っていた由紀ちゃんは、冴島君の隣にさりげなく移動した。

「由紀、だいぶ警戒心が強くなってるな」

 可笑しそうに小声で言う麻里ちゃんに、苦笑いしながら「そうだね」と答えた。


 せっかく隣に移動したのだから、二人で何か話すのかと思ったけど、由紀ちゃんは黙って顔を赤くするだけだった。そして、それに追い打ちをかけるように、鈍感な冴島君は、彼女を不思議そうに見つめる。もう見てられなくなったところで、「そういえば、今日のお昼はみんな何を食べたい?」と、麻里ちゃんが助け舟を出した。

 そうして、バスが来るまでの待ち時間は、結局いつもの昼休みのように、四人での和気あいあいとしたお喋りタイムになった。


「……おっ、あのバスじゃないか?」

 バスの到着が目前になると、私たちは待合所の外に出て、坂から下りてくる車の波を眺めていた。

「うわっ、なんか緊張する。ちゃんと止まってくれるかな? ……あれ、あっちにもバス停があるよ? もしかして、反対側の歩道なんじゃ……」

 私もはしゃいでいて、いつもより多弁になっていた。

「徒花ちゃん、落ち着いて。私たちが行く方向はあっち、私たち側の車線を走る車が行くのもあっちでしょ? だから、ここで正解だよ」

「あっ、そうか……」

 そんな話をしていると、バスは到着した。

「みんな、今日は楽しもう!」

 無邪気に笑いながら拳を突き上げ、ハツラツとした声で雰囲気を盛り上げると、冴島君は早速、バスに乗り込んだ。そして、私たちもすぐにその後を追い、私は最後に乗り込むことになった。こうしてバスに乗るのは、去年の秋の社会見学以来だ。臭いとも良いとも言えない、バスのこの独特な匂いを嗅ぐと、私のテンションは反射的に高まる。

 学校のイベントで乗ったことはあっても、プライベートでバスに乗ったことは一度もなかった私は、特に何の疑いもなく、冴島君からもらったバス賃を、運賃の投入口に入れた。

「あっ! まだ入れないよ」

 運転手のおじいさんに突然そう言われて、私はハッと我に返った。

「えっ? ……あっ、そうか」

 恥ずかしくて顔が真っ赤になった。よく考えてみたら、どこで降りるか告げていないのに、先払いできるはずがないじゃないか。

「ちゃんと払ったことにしておくから、大丈夫だよ。そこから、整理券を取ってね」

「あ、ありがとうございます」

 今日はよく考えて行動しなければならない、と肝に銘じた。私がこれから踏み込むのは、全くの未知の世界だ。


「うわっ、荻浦ってこんな都会だっけ?」

 目的地のショッピングセンター前のバス停に降り立った時、私は真っ先にそう呟いた。往来の激しい四車線の道路、空を突くように立ち並ぶ高い建物、そして目の前に聳える巨大なショッピングセンター。初めて訪れる駅前の風景は、どこを切り取っても目新しい。

「まあ、一応この県では人口二位の街だからな。……さて、そろそろ行くぞ」

 道中、私に窓側の席を譲ってくれた麻里ちゃんは、微笑みながらそう言って、私の手を引く。胸に手を当てて、高鳴る鼓動を感じながら、私は一歩一歩を踏みしめるように歩いた。

 人生で一番楽しい時間だった、と言っても、過言ではないかもしれない。そこからの時間は、本当にあっという間に過ぎて行った。


 まず立ち寄ったのは、由紀ちゃんが行きたいと言った、西洋風の雰囲気の漂う雑貨屋さんだった。滑らかな曲線の華奢なカトラリーや、百合の花の形をしたランプや、オシャレな洋服を着たテディベア。私は見ているだけで満足だったが、「私が代わりに払うから、何か買いなよ」と由紀ちゃんが何度も勧めてくれたので、ステンドグラス製……に見える、プラスチック製の蝶のキーホルダーを買った。

「五百円なんだけど……いいかな?」

「もちろん、全然いいよ!」

 両手を使って丁重に持ったキーホルダーを見せながら訊くと、由紀ちゃんは、私の遠慮を消し去るように、快活な声でそう言ってくれた。

「それより、素敵なキーホルダーだね。蝶、好きなの?」

「うん。蝶や蜂のような虫たちは、花が殖えるのを助けてくれるからね」

「なるほど、徒花ちゃんらしい」

 私たちはその後、他の二人と合流して会計を済ませた。こういうのには、あまり興味がないと思っていた麻里ちゃんや冴島君も、ちゃんと一つ二つくらい買っていて、特に冴島君が小さなテディベアを買っていたのが意外だった。

「テディベアって、恭平、そんな趣味があったのか」

 みんなでエスカレーターに乗っている時、麻里ちゃんは笑いながらそう言った。

「まあ、可愛かったからな。可愛いものは、みんな欲しくなるだろ」

 すると冴島君は、恥ずかしいと思っている様子など少しもなく、平然とした顔で答えた。

「確かにそうだな。私もウサギの置き物買ったし」

「だよな……って、麻里がウサギか」

「わ、笑うな!」

 二人がそんな他愛もない言い争いをしている時、由紀ちゃんは不意に、「じゃあ、私は可愛くないってこと?」と小さく呟いた。どうやら彼女の恋は、簡単には成就しなさそうだ。


「一階はよくわからないブランドショップだらけだから、とりあえず二階に来たけど、次はどこに行く?」

 ここを銭湯だと思って迷い込んだようなマッサージチェアの前、冴島君の問いかけに、みんなで首を捻って考えた。昼食を取るには少し早いし、ゲームセンターで遊ぶとなると、途中で腹ごしらえをする必要が出てくる。

「……あっ、本屋とかどう?」

 少しの沈黙の後、麻里ちゃんがした提案に、みんなで「それだ!」と応じた。今までは、「本」と聞くとどうしても茜のことを思い出してしまったけど、今日これから作る思い出で、それを少しでも変えられたら良いな。


「へー、これがマンガか……」

 この前、みんなが話していたアニメの原作マンガ、「コロサーガ」の最新巻を手に取って呟く。

 表紙を飾っているのは、ムンクの叫びみたいなポーズをした赤髪の男の人。その表情があまりにも絶望的だったから、図書室で見た小説の表紙や、教科書に載っているイラストとの違いに、少し驚いた。

「この人、どうしたの?」

「あー、コロサーガか。俺も初めて見た時は、ビックリしたよ。このポーズで表紙を飾るのが、そのマンガの伝統なんだって」

「なるほど……」 

 気になって、他の巻の表紙も確認してみた。すると、やはり冴島君の言う通り、表紙を飾るキャラクターは全て、金髪の美少女も、くたびれたサラリーマンも、みんな同じポーズをしていた。

「まあ、ギャンブル中毒とか、会社の破産とかで借金まみれになった人たちが、借金の完済を目指してデスゲームをする話だからな」

 顔をしかめる私を見て、冴島君は笑いながら言う。

「デスゲームって?」

「ヤバい組織が主催する命を懸けたゲームのことだよ。もちろんフィクションの世界でしかありえないけどな」

「……そんなの見て、楽しいの?」

 思わず言ってしまった瞬間、冴島君の表情は急に真剣になった。

「……確かに、これを見て面白いって言うのは、けっこう悪趣味だよな。だけど、『誰かの苦しむ姿を見たい』っていう気持ちは、多かれ少なかれ、きっとみんなの心にもあるよ。そして、こういう過激なマンガは、人々のそういう欲求を、安全に満たすためにあるんだ」

 私の顔を見つめながら、冴島君は一言一言を区切るように、ゆっくりと語った。まるで、私のセリフへの抗議をしているようだった。

「ごめん! なんか嫌味だったよね」

 反射的に言ってしまっただけで、冴島君の好きなものを貶すつもりなど、微塵もなかった私は、急いで釈明した。

「いや、気にしてないよ」

 かかっていた雲を払うように笑顔でそう言って、冴島君は小説コーナーの方に消えて行った。ほんの少しの違和感を覚えながらも、今は余計なことを考えたくなくて、私は黙って彼の背中を追いかけた。

 するとそこには、ションボリとうなだれている麻里ちゃんと、そんな彼女をギッと睨みつけている由紀ちゃんがいた。

「どうしたの?」

「麻里が小説のネタバレしてきたの! せっかく買って読もうと思ってたのに」

 怖い目のまま私の方を振り向き、由紀ちゃんは声を荒げて言った。そういえば、由紀ちゃんも本好きだと言っていたな。

「ま、まあ、面白い本は他にもあるよ。ところで、なんていう本のネタバレをされたの?」

「コートと春風」

 その名を聞いた瞬間、私の脳裏には、ある日の記憶が泡のように浮かんできた。

「へー、面白そうな本だから、私が読んじゃおうかな」

 そう言いながら、じんわりと湧いてきた愉快な気持ちを楽しんでいた。流石に、この短い時間で作られた思い出だけでは、茜と本の間のイコールを完全に断ち切ることはできない。だけど、最も嫌な記憶に繋がるイコールは、これから塗り潰すことができそうだ。

「……だそうです。麻里さん、わかりますね?」

「はい。私めがお支払いいたします」

 私にとってのコートと春風は、今この瞬間から、「あの落ち葉合戦の日に、茜が借りて読んでいた小説」ではなくなった。由紀ちゃんと麻里ちゃんのケンカに乗じて、ちゃっかり買ってもらった小説。それがコートと春風だ。


「徒花ちゃん、なんだか今日は自然体だね」

 向かいのソファ席に座る由紀ちゃんが、笑顔で言う。本屋での買い物を済ませた後、私たちは、バスを待っている間に話し合った通り、安くて美味しいらしいイタリアンのレストランに入った。

「そうかな?」

 なんとなく後ろめたくなって、立方体の氷がプカプカ浮いているお冷の水面に、視線を落とした。

「うん。勘違いだったら嫌で、言うのはこれが初めてだけど、いつもの徒花ちゃんは、自分を面白く見せようとして、頑張ってるように見えるよ。いつもの徒花ちゃんが嫌いなわけじゃないけど……今日の徒花ちゃんの方が、私は好きだな」

 胸の奥を射抜かれたようにハッとして、私は顔を上げた。するとそこには、恥ずかしそうに目線を逸らす由紀ちゃんの姿があった。

「俺もそう思うよ」

「そうそう、今日の徒花の方が可愛いよ。小動物みたいで」

 続く二人の言葉で、もうダメだった。

「……ありがとう」

 おそらくイタリア語で歌っていると思われる店内の静かなBGMが、ちゃんと掻き消してくれるくらいの小さな声を上げ、私は泣いた。茜と落ち葉合戦をしたあの日に芽生え、今もまだ残っていた「大切な人との時間のために生きる」という生き方への不信感は、その瞬間、手の平に落ちた雪の結晶みたいに、跡形もなく溶けて消えた。

「……私、今すっごく幸せ」

 思わず口に出してしまうほど、深く純粋にそう思った。そんな私の頭をよしよしと撫でてくれた隣の麻里ちゃんを、私は衝動的に抱きしめた。隣に座っていたのが冴島君じゃなくて、本当に良かったと思う。少し優しくされただけで、すぐに抱きしめてしまいたくなるほど、その時の私には、三人が愛おしく見えていたのだ。


 どうやら私には、「一度泣いてしまうと涸れるまで止められなくなる」という特徴があるらしい。最初は温かく微笑んでいたみんなも、途中から焦り始めてしまって、少し申し訳なかった。

 メニュー表に載っている料理はどれも美味しそうで、中には、ガザニアと名前が似ている例の料理、ラザニアもあり、一瞬だけ「どんな味なんだろう?」と興味をそそられた。だけど、今回払ってくれる冴島君の懐事情を考え、高かったのでやめた。そして、私が最終的に選んだのはランチメニューのドリア。たった五百円だったのに、今まで食べたどんな食べ物よりも美味しかった。もしかしたら、多幸感がスパイスになっていたのかもしれない。


「えーと、パンチが丸ボタンで、キックが三角ボタンで、ガードが……」

 私たちはその後、今回の目玉、ゲームセンターに行った。ここに来たら、最初に格闘ゲームで対戦するのが三人の中での伝統らしく、今日は私もそれに従って、冴島君に格闘ゲームの操作指南を受けていた。

「四角ボタン」

「あー、そうか。……うん、もう大丈夫。実際に戦ってみよう」

 操作するキャラクターを選ぶ画面では強そうだった大男も、初心者の私が操作したら、ピョコピョコ動いてなんだか弱そうに見える。操作の仕方もまだうろ覚えだったけど、みんなが退屈そうな顔になってきたので、流石にこれ以上の練習はやめた。

「じゃあ、私が相手になろうかな」

 最大四人で遊べる大型のメダルゲームの長椅子に座って、麻里ちゃんと二人で私たちを待っていてくれた由紀ちゃんが、そう言って手を挙げた。

「よし、負けないよ」

 機転を利かせた麻里ちゃんが即座に私サイドに陣取り、必然的に冴島君は由紀ちゃんの応援をすることになった。

『レディー、ファイッ!』

 筐体から流れる音声に合わせ、冴島君と麻里ちゃんが声を合わせて言う。私も本気で戦ったし、麻里ちゃんも必死に応援してくれたのだけど、結果は私のボロ負けだった。

「……くっ、やっぱり負けた」

 ただボタンをポチポチ押したり、レバーをカチャカチャ動かしたりするだけなのに、試合が終わる頃には一丁前に汗をかいていた。

「最初はみんなこんなもんだよ。それより、すごい楽しそうだったな」

「うん、楽しかった!」

 自分でもビックリするくらい無邪気な声が出た。私は昨日の夜も、「どんな楽しいことができるのだろう?」と空想しながら眠りに落ちたけど、この「ゲーム」というものは、少し予想外なくらい楽しかった。


『今回の優勝者は、久米麻里ー!』

 声を揃えてそう言い、麻里ちゃんの手を由紀ちゃんと片方ずつ掴んで、高く上げる。試合は総当たり戦で行われ、最後は麻里ちゃんと冴島君の試合だった。

「これで優勝回数はお互い二回。引き分けだな」

 したり顔で言う麻里ちゃん。

「いやー、惜しかったのにな」

 試合中の殺気立った雰囲気はどこへやら、柔らかく笑う冴島君。

「さて、次はレースゲームでもしようか」

 由紀ちゃんの提案に、みんなで頷き移動する。ゲームセンター中を飛び交う騒音も、ケミカルな光も、最初は異様に思っていたけど、今では気分が高揚して心地良い。

「……あっ、電話だ。ごめん、ちょっと出てくる」

 レースゲームのコーナーに着いてから少しした頃、冴島君は不意にそう言ってスマホを手に取り、ゲームセンターを出て行った。その時の冴島君は、なにやらとても急いでいて、「オッケー」と返事した麻里ちゃんの声も、聞こえていない様子だった。

「すっごい急いでたな。一体どうしたんだろ? ほら由紀、『大丈夫?』って訊きに行って、好感度を上げるチャンスじゃないか?」

 遠ざかる冴島君の後ろ姿を見送って、麻里ちゃんは、ニヤニヤしながら由紀ちゃんを肘でつついた。

「いいや、行かない。この前もこういうことがあったんだけど、ついて行ったら、本気のトーンで『今後はついて来ないでくれ』って言われたから」

 だけど、その時の由紀ちゃんには、いつものように笑って押し返す元気もなかったみたいだ。珍しく暗い表情で、葉を落とした冬の木みたいに突っ立っている由紀ちゃんの姿に、私たちは少し異質なものを覚えた。

「ふーん、そうなのか……」

 肘を離し、すぐに神妙な表情になって、麻里ちゃんは腕を組んだ。

「優しい恭平が、それくらいのことで怒るっていうのもビックリだし、私に内緒で、二人が一緒に出かけたっていうのも、ビックリだな。あと、そんなに進んでいるのに、未だにこんなウブだっていうのも……」

 麻里ちゃんが真顔で言ったその言葉に、由紀ちゃんは顔を赤くして俯いた。神妙な空気に流されて、私も気づいていなかったけど、言われてみればそういうことか。


「……じゃあ、私が捜しに行くよ。ちょうどトイレにも行きたいからさ」

 冴島君は結局、あれから十五分近く経っても帰って来なかった。変だなと思って、みんなでゲームセンターの近辺を見回したけど、そこにもいない。不安になった私たちは、捜しに行ってくれる人を決めているところだった。

「ありがとう。恭平に何か言われても、気にしないでね」

 どこか申し訳なさそうに、由紀ちゃんが言った。

「大丈夫だよ、全然気にしないから」

 心配させないための強がりじゃなく、本心だった。硬い弦を扱うギタリストの指の皮が厚くなるように、私の心もまた、茜という理不尽の権化みたいな人と長らく付き合っていたお陰で、頑丈になっている。少しの間、理不尽な態度を取られたからって、なんだと言うんだ。

「わかった」

 冴島君の身に何かが起こっており、せっかく手にした幸せが崩れてしまったら? そんな懸念は瞬く間に心を埋め尽くし、私の心臓は軋むように痛んだ。

(まずはさっさとトイレを済ませるぞ!)

 そうやって心の中で自分に発破をかけ、私はただひたすらに急いだ。

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