第121話 移住者の問題
複数の種族が雑居する北の大陸では、大小様々な問題が種族間で発生する。それは境界線に関してであったり、理由も良く分からない喧嘩であったり、時には女性の取り合いであったり。そうした問題があれば通常は当事者が属する種族の間で話し合うが、複数の種族に跨がる問題については、各種族の代表、通常は族長、が参加する族長会議で話し合う事になる。そうやって北の大陸では種族間の問題を解決してきた。
だが最近の族長会議で話題になるのは主に南の大陸から移住して来た者達が引き起こす事件だった。ガイが引き受けた移住者ではない。それ以外にも新天地を求めて来た移住者は多く、しかし残念ながらそうした中には南の大陸では暮らしていけない
「そもそも儂は始めから移住者の受け入れに反対だったのだ。」
「今更それを言っても仕方なかろう。人が減って生産力が落ちてしまったから移住者を受け入れると族長会議で決めたのだ。だが受け入れると決めたのに、その為の体制や規則の必要性を軽んじてしまった。我等にも落ち度はあろう。」
「そうだ。多くの移住者は真面目に働いてるぞ。どの種族もその恩恵に預かっている。受け入れる事自体は問題なかった筈だ。」
「じゃあどうするのじゃ。このまま問題を放置する事も出来んじゃろ。なぁガイよ、何か良い知恵は無いかのう?」
ガイは正式には族長ではないが、一応は
「先ずは基本的な事として移住者の台帳の作成と、それを管理する組織を作りましょう。勿論その組織には新たな移住者の受け入れ手続きや、定期的に台帳の見直しをさせます。その上で各種族の協力の元に犯罪者を取り締まる警察組織を作ります。」
「それは良いがの。誰にそれを任せるのじゃ。」
「1人、適任者がいます。皆さんが同意してくれるなら、次回の族長会議の時に連れて来ましょう。その時までに原案を準備させます。」
「それは良いな。皆の者はどうじゃ。」
「賛成だ。」
「我も問題ない。」
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ガイが白羽の矢を立てたのはユリシスだった。彼は南の大陸で連邦制を成立させた立役者であるが、ジュードという後ろ盾を失って失脚し、ガイを追って北へ移住していた。ユリシスだけでなく、他にもジュードの元に集まっていたかつての憂国の士の何人かがガイを追って北に移住している。森人族の再興が進んだのは彼等のお陰でもあった。
「ユリシス、厄介な仕事だが頼まれてくれ。」
「確かに私向きの仕事ですね。将来の為に
「もちろん構わない。よろしく頼む。」
「お任せ下さい。」
ユリシスは原案を数日で作り上げたが、それはガイが考えていたものよりも単純に思えた。移住者の管理については、南からの新たな移住者の受け入れ手続きや居住先の斡旋などは
「いきなり南と同じものを押し付けては駄目です。やり過ぎると反発を産みます。この大陸の人々にあった形を少しずつ作っていきましょう。」
「そんなものかな。」
ガイは不安を感じながらも族長会議で提案すると、族長達はあっさりと了承した。
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ガイ達が北へ移住してから20年の月日が流れていた。ユリシスが携わった移住者の管理体制は、小さな問題は残しつつも、機能し始めていた。各種族の連携によって犯罪集団は数を減らしている。また同時に移住者の犯罪とされた事件の何割かが憶測や噂話の類であり、また移住者ではない種族出身者による被害が含まれていた事例も報告され、移住者に対する認識は徐々に見直されていった。
フレミアはガイとの間に女児を授かり、その子はもう7歳になっていた。ガイとフレミアはフローラという名を子に与えた。周囲は新たな生命の誕生に喜び、マリエラも歳の離れた妹ができて喜んだが、フローラが5歳になった時に胸の紋章が現れた。ガイとフレミアはその紋章に見覚えがある。マリリアと同じ聖者の紋章だった。また戦乱の時代が始まるのだろうか。状況が見えてくるまで2人は紋章について秘匿する事を決め、マリエラとフローラにもその事を言い含めた。
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