第100話 街道での待ち伏せ

ジョルジアは、東は旧ゲイルズカーマイン地域、西はアルムヘイグ、北はハルザンドへと続く街道が交わる要衝で、この街道を通る人や物は多い。仮にここが閉鎖されれば、大陸内での人や物の動きが滞る。それは交易だけでなく、軍事にも当て嵌められる。


ホドムの調査やマリリアの証言によれば、ケララケはカーマインを攻略中で、その攻略に必要な兵や物資はジョルジアを経由している。北はハルザンドを、南はスーベニアを経由する古い街道はあるが、ジュードがハルザンド東部を抑え、スーベニアが帝国に屈していない現状では、帝国による兵や物資の輸送には使えない。つまりジョルジアの街道を抑えるとケララケは孤立する。


クリスがアルムヘイグの闇森人をスーベニア側に引き付けている今がジョルジアを取り戻すチャンスではある。しかしジョルジア攻略中にハルザンド東部を奪い返される可能性、ケララケやシルリラがジョルジアを救援する可能性を考慮しなくてはならない。特にハルザンド東部を奪い返されると北大陸からの物資支援が途切れてしまう。


「私がジョルジアへ行きます。」


マリリアのこの唐突な発言にその場にいた全員が驚いた。そもそも彼女はこの前まで敵軍を率いていた。精神支配から解放されたと頭では理解していても、再び裏切られるかも知れないという疑念が生じる。だが、マリリアは周囲の様子には構わず話を続けた。


「注意すべきはハルザンド王都のアゼルヴェードとカーマイン攻略中のケララケです。アゼルヴェードはジュードが、ケララケは神装具を使える私が相手をすべきです。」


「自分が何を言っているのか理解しているのか。一度裏切ったお前が信用される事はない。」


「それでしたら、お好きなだけ監視を付けて、もし裏切ったならばその場で殺して下さい。精霊石を持たない私を殺す事は難しくない筈です。」


こうして消極的ながら許可を得て、監視付きでマリリアはケララケの攻略へと向かった。編成した一般兵達と共に、監視を兼ねてゴルバとティーゼの部隊が同行した。ジョルジアに入ってからは、闇森人が守る都市には近寄らず、小さな町や村を解放しつつ、ジョルジアからカーマインへと通じる街道を目指した。


解放された町や村の住民は、はじめは感謝の言葉を口にするが、部隊を率いて来たのがマリリアだと分かると罵声を浴びせた。ジョルジアを滅亡させた張本人なのだから当然だろう。家族や知人を失った者も少なくない。マリリアは何も言い返さず言い訳もせずに先を急いだ。国を滅ぼした悪女マリリアが今は町や村を解放している、その事実が驚きと共に周辺地域へと伝わっていった。


街道に到着したマリリアは、この街道でも一番の難所である川沿いの道、その対岸の林の中に潜んだ。そこからは曲がりくねった対岸の街道が見える。岩場を削って作られた街道で、馬車1台がどうにか通れる程度で道幅は狭い。仮に多くの兵がいたとしても、その場所だけは隊列が細く伸びる。但しマリリアが潜む対岸からはかなりの距離があった。この場所にケララケを誘い出す。マリリアはその時を静かに待った。そのマリリアの後ろにはゴルバ、いつでもマリリアを殺せる距離で待機していた。


ケララケを誘い出す為に、ティーゼは街道を通る帝国の物資輸送を妨害していた。すると目論見通り数日後にケララケの率いる部隊がカーマイン方面から現れる。マリリア達が潜む対岸からでも一際体の大きいケララケを容易に見つける事ができた。マリリアはケララケを視認すると、何度かゆっくりと深呼吸した後、神装具の弓を構えて3本の矢を続けて放った。鋭く一直線に3本の矢がケララケへと飛ぶ。1本目はケララケの鼻先を掠め、驚いて矢が飛んできた方向に向いたケララケの胸に2本目の矢が突き刺さり、3本目は眉間に突き刺さった。闇森人でも不可能で、神装具を持ち、途中で矢の軌道を調整できるマリリアだからこそ出来た超遠距離狙撃だった。


ケララケが大きく揺れながら後ろ向きに倒れる。驚きつつも闇森人がこちらへ矢を放つが、マリリア達のいる場所には届かない。神装具の使用で疲弊したマリリアは動かないケララケの姿を確認してから地面に座り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る