第98話 今も残る傷跡
マリリアはオアシス都市の一角にある部屋にいた。ジュードはマリリアに止めを刺そうとしたが、ガイの必死の助命嘆願により生かされ、フレミアに預けられていた。マリリアはもう何日もまともな食事をせず、与えられた部屋に閉じこもっていた。家族をこの手で殺した記憶、化け物に抱かれた
「マリリア様、お聞き下さい。」
「フレミアさん...私に敬称は不要です。今は何者でもない。ただの
「ではマリリア、お聞きなさい。とても大切な話です。あなたには役目があります。ジュード様はあなた達に受けた傷が未だに癒えていません。戦われる度に出血します。それをあなたの聖者の力で癒すのです。」
「傷が...あぁぁ、ジュード...ごめんなさい、ごめんなさい。」
ジュードを殺そうとした事の後悔がマリリアの中で再び沸き起こり、手で顔を覆いながらその場に座り込んでしまった。もう流れる涙はなく、かすれた声で
「いっそあの場でジュードに殺して貰えれば罪を償えたのに...」
「マリリア、死んで楽になるのはあなただけです。それは償いとは言いません。裏切られて心も体も傷ついたジュード様を癒す事があなたの償いではありませんか? それともジュード様の傷を癒す事が嫌なのですか?」
「そっ、そんな事は。ジュードの為ならなんでも...」
「そうですか、それでは今夜から始めましょう。それと、その胸の傷も直しておいて下さい。」
「この傷を? これは自分への罰として残したいのですが。」
「あなたは未だ若い女性でしょう。あなたの為です。なるべく早く消して下さい。」
その日の夜、フレミアはマリリアを伴ってジュードの部屋を訪れた。マリリアを見たジュードはなぜこの女を連れて来たのかと怒鳴ったが、必要だと自分が判断して連れて来ました、とフレミアは毅然とした態度で答えた。いつも穏やかなフレミアらしくない態度であったので、仕方なくジュードは許可した。
フレミアはジュードをベットに横たわらせ、慣れた手つきで新装具や服を脱がす。ジュードの体は、魔術に焼かれた左肩は乾ききらずに血が滲み、胸にある3箇所の矢傷からは血が出ている。マリリアはそれを見て思わず息を呑んだが、フレミアはそれには構わず、布で優しく血を拭き取り、そしてマリリアに治療を促した。マリリアの聖者の力で傷や火傷痕は僅かに良くなったが、完治には長い期間が必要だと思われた。それに失明した左眼は諦めるしかなかった。痛みが引いて楽になったのか、あるいは戦いで使った神装具による疲れの為か、ジュードは寝息を立て始めていた。
「マリリア、ジュード様の体に触れて分かったでしょう。体が冷え切っているのです。」
そう言うとフレミアは恥ずかしがる事もなく服を脱ぎ、ジュードのベッドに入り彼を温め始めた。マリリアも慌ててフレミアに続く。フレミアはジュードの血が自分の髪や体に付いても気にせずピタリと体を寄せている。かつてはマリリアもジュードのベッドに潜り込んでいたのに、彼を裏切り傷付けてしまった後ろめたさと後悔で、今はどこか
翌朝、2人はジュードが目覚める前に静かに寝室を出て行った。
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