第97話 マリリアとの再会
「闇森人の部隊200名ほどが接近しています。」
「闇森人の矢による遠距離攻撃は一般兵では未だ対応できない。動きの良いガイとティーゼの部隊だけを連れて行く。」
ホドムから連絡を受けてジュードは少数で迎撃に向かった。ジュードが率いる部隊は、現状では闇森人を相手に出来るほどの装備も練度もない。大勢で向かっても無意味だった。ジュードか、或いは戦闘に長けたガイとティーゼで迎撃するしかない。ゴルバは力任せの戦闘では優位だが、遠距離攻撃が得意な闇森人との相性が良くなかった。
遠くに見える闇森人の部隊、その部隊を率いていたのは神帝の妃となったマリリアだった。ジュードは知らなかったが、イェリアナとシルリラは妊娠中の為に、ケララケはカーマインへの侵攻中だった為に、マリリアに反乱討伐が指示されていた。マリリアは殺した筈のジュードがいる事に一瞬驚いた様だが、直ぐに弓を構えた。闇森人の兵士もそれに倣う。直ぐに矢を放つかと思われたが、なかなか矢が放たれない。
「こちらから仕掛けるぞ。ミケ...速さ、防御、飛翔で行く。」
「任せろジュード。シャム、トラ、やるぞ。」
紋章を光らせたジュードの神装具にミケ達が飛び込み、ミケは龍人族の速さ、シャムは鉱人族の防御力、そしてトラは妖精族の飛翔力の加護を発動させた。ジュードは低空を高速飛行して闇森人の部隊へと迫る。その速度は常人が眼で捉えるのが困難なほどだった。数多くの矢は放たれるが、簡単にはジュードを捉えられない。マリリアはどうにか1本の矢をジュードに当てたが、ジュードの盾に簡単に弾かれた。
尚も接近するジュードはマリリアの直ぐ横を高速で通り過ぎ、闇森人の集団へ突っ込んで数人を纏めて斬り倒した。周囲の闇森人がジュードに狙いを定めようとするが、ジュードは直ぐに違う場所へ飛んでそこの闇森人を斬り倒し、また高速に移動して別の闇森人を斬り倒す。闇森人は動きの速すぎるジュードに矢を放つ事が出来ないまま、暫くして全て斬り倒されてしまった。
そしてジュードは最後にマリリアの体を左肩から右の腰にかけて斜めに斬った。マリリアが咄嗟に避けたのか、ジュードが不慣れな妖精族の神装具を使ったからか、或いは無意識に手加減してしまったのか、辛うじてマリリアは致命傷を負わずに済んだが、胸に受けた傷は深い。マリリアは慌てて聖者の力で自身の傷を癒やし始めたが、痛みの為に立っていられず、その場に膝をついた。
それと同時にマリリアの頭の中に幾つもの疑問が湧いてくる。なぜ自分はジュードと戦っているのか、なぜ自分はアゼルヴェードという化け物に全てを捧げたのか、なぜ家族や多くの人々を殺めたのか、なぜ...。本来の自分なら望まぬ筈なのに犯してしまった過去の誤ち、何もかもがもう元には戻せない事に気付き、マリリアは震えと涙を抑える事が出来なかった。マリリアのこの絶望感は、胸にあった精霊石がジュードによって斬られ、精神支配から解放された為だった。
ジュードがマリリアに止めを刺そうと剣を振り上げた時、ジュードとマリリアの間にガイが割って入った。ガイは片膝を付き、マリリアを守る様に両腕を広げてジュードに向いている。ガイの後ろにいるマリリアは震えながら、涙を流しながら、何かを求める様な眼でジュードを見ていた。
「お待ち下さいジュード様。マリリア様を殺してはいけません。」
「そこをどけ。その女がアゼルヴェードと共に多くの人々を不幸にした事をお前も分かっているだろう。生かしておく訳にはいかない。」
「それでも無理を承知でお願い致します。どうか、どうか命だけはお助け下さい。例え精神を支配されたとしても犯した罪は罪でしょう。ですが、それだけで罰してしまってはマリリア様が余りにも不憫です。どうかお考え直し下さい。」
普段は無口で自己主張しないガイだが、こうなると決して引かない事は分かっている。それも単なる感情ではなく、彼なりに必要と判断しての行動だろう。ジュードはマリリアの扱いをガイに任せると伝え、その場を後にした。
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