第94話 古の神装具

龍人族の里に入ると里の更に奥にある大きな木造の建造物に通され、龍人族が崇める神であるテラスゴの前に座らされた。テラスゴは巨人族の神であるゴードと同じく巨体だった。闇森人との戦闘で負傷したのか、テラスゴの胸や腕には包帯が巻かれている。案内してくれた女戦士はティーゼと名乗り、テラスゴの隣に座った。それ以外の龍人族の兵はテラスゴへ何事か報告し、部屋を下がっていった。


「ティーゼ達を助けてくれたそうだな。先ずは礼を述べたい。この娘は優れた戦士なんだが、先走り過ぎてな。今回も敵兵を十分に確認せぬまま仕掛けてしまったそうだ。」


「その事は気にしないでくれ。助ける事が出来て良かった。」


それからジュードはこれまでの経緯等を説明した。


「大凡は分かった。ただ神装具という物が気になるな。人がそんな物を作ったというのは驚きだ。ここではワシの体の一部を使って装具を作る事はある、それを龍神装具という。だが武器などではないぞ。装具だからな。身に付ける事が多い。」


「龍・神装具だと、詳しく教えてくれ。」


龍人族の神であるテラスゴは、本来の力に戻れば龍の姿に変化する事が出来、その際に鱗が剥がれ落ちる事がある。それを加工して作った物を龍神装具と呼び、形状は様々だが、テラスゴを崇める龍人族が身に付けると速さを高める加護が付与されるという。この地の他の種族にも似た様な装具があり、巨人族なら腕力を、鉱人族なら頑丈さを高める装具があるという説明だった。


「使わせてもらう事は可能か?」


「構わんが、ワシを崇めぬ者が使ってもワシの加護が効くとは思えんぞ。」


ジュードはティーゼが差し出した腕輪を試したが、何か変化がある様には感じられなかった。だが紋章を光らせてみると僅かな感覚の変化がある。ジュードが再び紋章を光らせ、ミケが龍神装備に入ると、より確かな感覚の変化を感じた。その様子を見ていたテラスゴがいきなり攻撃を仕掛けて来たが、ジュードは軽々と避ける事が出来た。これまでは勇者の紋章により思考が加速されても体の動きが伴わない事があった。しかし龍神装具を使うと思考に体の動きが追いつく。


「これは驚いた。こんな事は初めてだ。実に興味深い。よし、ワシが各種族に声を掛けてお前の装具を整えよう。それまでお前には獣人兵や闇森人の撃退を手伝って貰いたい。」


ーーーーーーーーーー


それから数ヶ月は、龍人族や巨人族の戦士達と共に周辺の獣人兵や闇森人を駆逐しつつ、精霊石が砕かれて解放された種族の神を訪ねて協力を仰いだ。合わせてテラスゴやゴード、それに他種族の神々と議論し、アゼルヴェードに関する情報が整理していった。


この地の神々は、自分を崇める者が多く強ければ力を得て、反対に崇める者が減れば力を失う。森人族の神を取り込んだアゼルヴェードも、そしてジュード達が信じる神も、おそらく同じだと思われる。そうであるなら、アゼルヴェードの目的は、自分以外の神々の力を削ぎつつ自身の力を強め、最終的には自分の子供達に弱った神々を取り込ませ、一族でこの下界を支配する事ではないか。確証はないが、集めた情報から得たこの仮説が最も事実に近いと思われた。


ーーーーーーーーーー


「お前の神装具が出来上がったぞ。」


テラスゴに呼ばれて彼の屋敷に訪れたジュードの前に新しく拵えられた美しい鎧が置かれた。装着してみると驚くほど薄く軽く、動きが阻害される事もなく、鎧とは思えない程の動き易さだった。右肩には龍人族の印、左肩には巨神族の印、胸部には鉱人族の印、その他にも各種族の印が施されている。それぞれの印にミケ達が入るとその装具の加護が発揮される。


「元々は装具であって防具ではないからな。これ自体の防御力は期待するな。お前は光る鎧や盾があるから問題ないだろう。」


「あぁ、問題ない。この装備があれば今まで以上に戦える。」

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