第79話 北の亜大陸

「あたいはケララケ、北の大陸から来たんだ。こっちはゴルドル、残念だけどこいつは喋れないよ。でも話は理解してる。それであんたが殺しちゃったのがハグバって奴さ。」


城塞都市にある役所の一角でケララケと名乗る蛇女は話し始めた。ジュードを含めこの大陸に住む者達にとって北に大陸があるのは新しい事実だったが、彼等が乗ってきた軍艦で見つかった地図を見る限り信じるしか無い状況だった。ケララケは大陸と言ったが、その地図には北の大陸の南側しか描かれていない。地図に描かれていない北側との間には大きな山脈があってその先は知らないとケララケは説明した。北の大陸の山脈で隔てられた亜大陸が彼等の住む地域、広さで言えばジュード達がいるこの大陸の大国3つが入る程度だった。


「あたいらは遥か太古の昔にこっちの大陸を追われた種族の末裔さ。でも北の地は住みづらくなってね、それでこっちへ来たんだ。」


「何故、北の地が住みづらくなったんだ。お前たちの様な者がまだいるという事か。」


「焦るんじゃないよ。一つずつ質問してくれ。先ずは住み難くなった理由だろ。山脈を超えて攻めてきた奴等がいたんだ。」


ケララケ達が住む地域は幾つかの種族がそれぞれに集落を持って緩やかに連携していた。しかし山脈を超えてきた侵略者に攻められ、ケララケ達は初め抵抗を試みたが、相手が強過ぎてとても敵わなかった。棲家を追われ、仲間が捕えられ、徐々に劣勢となっていった。ケララケ達も捕えられた。


「あたいも以前はこんな姿じゃなかったんだ。ガタイはちょっと大きかったけど、だいたいあんたらと同じだったよ。ゴルドルとハグバも同じさ。奴等に捕まって、身体を造り替えられてしまったのさ。」


身体を造り替えられたケララケ達は、大きな力を得たが、仲間を人質に取られ、侵略者に従うしかなかった。ケララケ達の他にも異形の者達はいるそうだが、新しい身体に適合できる可能性は低くらしく、数は多くない。かつてそれぞれの種族を率いていた古い神々、その時代の神々は民と交わって子孫を残し、その血を濃く残す者だけが適合できたのではないかとケララケは考えていた。その少数の異形の者達が侵略者に命じられてジュード達の大陸に攻めてきたのだった。異形の者達と共に攻めてきた兵達も、元は侵略者に捕えられ、家族や友人を人質にされた者達だった。


「通常の攻撃がお前達に通じないのは古い神々の血を残している為か。」


「それはあたいも分からないね。身体を弄られる前は普通だった筈だよ。単に攻撃が弱いのか、身体を弄られた為か、それとも別の理由か。あぁ、そう言えば身体の中に赤い石を埋め込まれたね。」


報告では、ハグバという名の羽持ちの身体の中からは赤い石が見つかっている。しかしそれが何なのかをケララケ達は知らされていなかった。身体を造り替える為か、ケララケ達に力を与える為か、あるいはケララケ達が逆らわぬよう制御する為か、いずれにせよ何かの役割があるのだろう。詳しい確認が必要だった。


「さぁ、もう知っている事は全て喋っちまったよ。今度はこっちのお願いを聞いて欲しいんだけど。」


「内容による。」


「前にも言った通り、あたい達の命はくれてやる。代わりに人質にされている仲間達を助けて欲しいんだ。」


「それは大き過ぎる願いだ。」

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