第78話 砂漠での待ち伏せ

敵軍を敗退させた後、ジュードは疲労したマリリア達を王都まで下がらせる事にし、ガイと少数の先鋭だけを引き連れて敵軍を追走した。2日目の夜、野営している敵軍を捉え、離れた場所から異形の者達がいる場所を探ったが、その時は見つける事が出来なかった。


ジュードは作戦を変更して敵軍を先回りする事にした。ハルザンドの先鋭は砂漠での移動や戦闘に慣れている。彼らの指示に従って砂丘の影に隠れながらやや遠回りで先を急ぎ、敵軍が通るであろう場所のすぐ側の砂の中に身を潜めた。敵軍には羽持ちがいる。その羽持ちが上空からジュード達を見つけぬ様に先鋭達は砂を丁寧に均して足跡などを消し、自分達は更に先行して砂丘の影に潜んだ。2時間も経てば砂漠に吹く風によってジュード達の痕跡は完全に消えた。


ジュード達が砂漠に潜んだ日の夕闇、敵軍が2列になって進んで来るのが見えた。おそらく暑い日中を避けて夕方から移動を開始したのだろう。100人程の敵兵をやり過ごすと、一際大きな異形の者達が隊列の中程にいる事が確認できた。牛頭、蛇女、羽持ちの順で進んで来る。恐れの為か、周囲の敵兵は異形の者達からは少し離れて歩いていた。


暫くすると敵軍の先頭付近から戦闘音が聞こえてきた。潜んでいたハルザンドの先鋭達が仕掛けている筈だった。状況を確認しようと敵兵の何人かが異形の者達から離れて先頭に向かった。異形の者達もやや足早に先頭に向かい、ジュードが潜んでいる場所を通ろうとした時、ジュードは砂から躍り出て羽持ちに迫った。羽持ちは横目でジュードを視認したが、予想外の急襲を受けて一瞬怯み、回避行動が遅れた。その羽持ちの右側やや後方からのジュードは光の剣を突き出し、羽持ちの胸を正確に貫いた。羽持ちが呻きながら暴れたが、ジュードは構わず光の剣を振り下ろした。羽持ちは胸から下を縦に両断されてその場に崩れ落ちた。


異変に気がついた牛頭と蛇女が振り向いてジュードに対峙した。牛頭が斧を振り下ろすが、片手だけの攻撃では手数が足りず、ジュードはあっさりと回避し、牛頭の胸を斜めに斬った。牛頭の厚い胸板に阻まれて致命傷には至らなかったが、その胸からは少なくない血飛沫が飛んだ。ジュードが続けて剣撃を繰り出そうと光の剣を上げた時、蛇女が腕を広げてジュードと牛頭の間に割って入った。


「まっ、待ってくれ。降参だ。」


「お前達は多くの罪のない住民を虐殺した。その住民達も命乞いした筈だ。今更、自分達だけ生き残ろうと言うのか。」


「命はくれてやる。その前に話をさせてくれ。あんた達もなぜ責められたのか知りたいだろう。」


蛇女は、イェリアナに切り裂かれた左腕はだらりと降ろしたままで、右腕を自分の胸に当てた。そのポーズが何を意味するのか分からないが、攻撃の意思は無さそうだった。牛頭は蛇女の後ろで腰を下ろし、斧をジュードの方へと放り投げた。近くの敵兵も牛頭に倣って自ら武装を解除し、地面に腰を下ろした。


数日後、ジュード達から連絡を受けたハルザンド国軍が到着し、敵兵と異形の者達を城塞都市へと連行した。合わせて港町へも兵が派遣されたが、そこには住民の死骸が積まれた山と、敵兵が乗ってきた軍艦があるだけで、敵兵は残っていなかった。

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