第80話 次の戦いに向けて

羽持ちの身体に埋め込まれていた赤い石についてジュード達は話し合っていた。王都で休息していたマリリア達も合流している。ケララケ達の様な異形の者達と戦うには現状では戦力不足なのは明らか、その状況を打開する手掛かりがないか議論する中で、改めて赤い石が話題に上っていた。ジュード達の前には国軍から送られてきた赤い石がある。しかしその石はジュードが羽持ちを切った際に砕かれ、幾つかの石片へと形を変えていた。


「こりゃあ、僕達の様な神界から来た存在だったんだろうね。精霊とか。この下界とは違う力を微かに感じるよ。」


「だがミケとは違って実体がある。」


「神装具みたいに依代に憑依したか、または封じ込められたか。僕達とは違う方法で実体を持ったんだろうよ。」


「我々の信じる神とは違う方法か。それをやったのはミリアが神託で聞いたという新しき神々なのだろうか。」


「可能性はあるけどね、まだ断定できないんじゃないかな。」


「これがあればシャムの助けがなくても神装具を使えるかしら。だって神界の存在が感じられるのよね。」


イェリアナがその精霊石の石片を一つ摘み上げて言った。しかしその発想は危険だった。現状、神装具についても赤い石についても分からない事が多すぎる。誤った扱い方で神装具が機能しなくなる可能性もあった。それに壊れていない石はケララケとゴルドルの身体の中にしかない。それを彼等の身体から取り出すとどうなるのかも分からない。ジュードは彼等の命を奪うような危険を犯すつもりはなかった。


赤い石は精霊石と名付けられた。


ケララケ達は引き続き城塞都市に留め置いた。ケララケの左腕は治療不可で上腕部の中程で切断する事になった。ゴルドルもそうだが、彼等は痛みへの耐性が高いらしく、切断しても平気な顔をしていた。ただ、出血は避けられず、止血処理は必要だった。敵兵の怪我人の治療も並行して進められた。マリリアは忙しくしている治療班を助けていたが、彼女の聖者の力でも全員を治療するには時間が掛かりそうだった。


「あたい達を生かしておいて良いのかい。牢にも入れないなんて。その気になれば逃げちまうよ。」


「お前とゴルドルに鉄格子など意味はない。人質を助けたいのだろう。それまではお前達も協力するんだ。」


「良いのかい?」


「良いか悪いかは分からない。だから行動で示せ。」


それから暫くは城塞都市の修復を進めたが、暇つぶしにとケララケ達が手伝いを申し出てきたので許可した。片腕とは言え巨体で怪力のケララケ達の参加は助けになった。資材を運びながら兵達と楽しそうに笑うケララケを見ていると、本当は戦争などよりこうした作業の方が彼女に合っているのだろうと思えた。


城塞都市での修復作業を終えた後、ジュードはマリリアとケララケを伴って最初に攻撃を受けた港町へ向かった。既にハルザンド国軍が先行して死者の埋葬や街の整備を進めている筈だったが、再び北の大陸から攻めてくる可能性があり、早期に防衛体制を早期に築く必要があった。ゴルドルは城塞都市に残し、念のためイェリアナとシルリラも残した。

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