第61話 マリリアとの婚約

ジュードはマリリアを伴ってマルス王とマルグリットへ婚約を報告した。二人は終始笑顔だったが、喜ぶと言うよりホッとした表情だった。直ぐに結婚の準備を始めようとマルス王は言ったが、学業を優先するので未だ早いと断った。


主だった貴族へは早めに公表する事になった。一般的には婚約したからと言って直ぐに公表する事はなく、周囲の状況を見極めてからとなるのだが、今回に関しては直ぐに情報が漏れてしまうだろう。王宮に出入りするジュードとそのジュードに尽くすマリリアの姿を見れば勘の良いものは気が付く。


ジュードの実家だけにはいち早く知らせた。驚いた父親が王都へ飛んできたが、ジュードが直接会う事はなく、マルグリットが対応した。


「おっ、王太后様のご尊顔を、はっ、拝し...」


「余計は挨拶は必要ありません、手短に用件を伝えます。事前に伝えたした通り、ジュード殿へ孫娘のマリリアを輿入れさせます。聞けばジュード殿は三男坊で実家へは戻れないそうなので王家で預かりました。ですから今後は肉親だからと気安くジュード殿に接近しない様に。他家が何か言ってくる場合は王宮に知らせなさい。そうそう、ジュード殿に関する事は全て他言無用です、漏らしたら潰しますよ。」


「はっ、はい〜...絶対に他言しません〜」


マルグリットの前で萎縮してしまった父親は渡された財貨を持って地元へ戻って行った。


ジュードとマリリアの婚約の噂が学校内で広がるのに時間は掛からなかった。有力貴族家の子女から伝わったのだろう。マリリアにお祝いの言葉を述べる生徒が多い一方で、ジュードへの風当たりは強くなった。嫉妬した男子生徒の何人かが木剣での試合を申し込んだ事もあったが、ジュードは手加減なしで打ち払った。


貴族家の当主でこの件に異議を唱える者はいなかった。中小の貴族家はそもそも王族の婚姻に異議を唱えられる立場になく、有力な貴族家はフレデリカの親であるヨミナス伯爵への厳しい処罰を知っていて異議を唱える事を恐れた。


婚約の件が周囲に知れ渡るとマリリアの遠慮はなくなった。これまでも王宮内のジュードの部屋で読書をする事はあったが、最近では、ジュードの部屋の隣にあるかつてマルグリットが使っていた部屋に引っ越していた。ジュードが使っている英雄王ジークの部屋と、マリリアが引っ越した王妃マルグリットの部屋は、扉一枚で直接繋がり、廊下に出る事なく行き来できる。そして今ではその扉を通って真夜中にそっとジュードのベットに潜り込んでいる時がある。


「マリリア、未婚の女性が男性の寝室に入るのは良くない。」


「私は以前からこちらのお部屋に出入りしています。それに治療の際にジュードの全てを見ていますので今更何を見ても困りません。」


「夜に男のベットに入ってはいけないと教わらなかったのか。」


「私はジュードに全てを捧げるつもりですので、何の問題もありません。それに作法はお祖母様とお母様に教わっています。」


「とにかく夜に部屋へ来るのは必要な時だけにしてくれ。」


「分かりました。夜にこの部屋へ来るのは、なるべく、控えます。」


似た様なやり取りは何度もしたが、マリリアの夜の訪問がほんの少し減るだけだった。マリリアはベットに入ってもジュードの腕に抱きつきながら眠るだけで、ジュードの睡眠を妨げる事はない。ジュードも次第に気にしなくなった。

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