第五部

第60話 ガイの提言

ジュードとマリリアは共の高等学校の第2学年へと進級した。


復学時は最下層のHクラスだったが、前年度末の試験で二人とも優秀な成績を残し、ジュードはDクラス、マリリアはCクラスへと上がった。この辺りになると上級貴族の子女も在籍している。マリリアの友人もいるだろう。友人達と有意義な学校生活を過ごして欲しいとジュードは考えていた。しかしマリリアは依然として通学時と昼食休憩時にはジュードの横にいる。同じ王宮から通学するのは仕方ないとして、昼食休憩ぐらいは友人といても良いと思うのだが、この話をするとマリリアがまた涙ぐむのではないかと、その事が気になってジュードから話を切り出せずにいた。


最近では早朝にガイと武術訓練する事が多い。剣術だけでなく、槍術や体術においてもガイは一流と言えた。ジュードは勇者の力に頼りすぎていたと反省し、ガイとの武術訓練に打ち込んだ。ガイと話すと、彼の生真面目さが良く分かる。口数は少ないが、頭の回転も良さそうだった。


この日もガイと武術訓練に励み、水浴びで汗を流した後に部屋へ戻ろうとした時にガイが話しかけてきた。彼から話しかけてくるのは珍しい。


「ジュード様はマリリア様をどうなさるおつもりでしょうか?」


「どうとは? 彼女には幸せになって欲しいと思っているが。」


「マリリア様を幸せにするつもりという理解で良かったでしょうか?」


「幸せになるのは彼女であって、それは彼女次第だろう。」


どうも話が噛み合わない。それはガイも感じた様で、マリリアも含めて3人で話をさせて欲しいと言う。ジュードの部屋に戻るといつもの様にマリリアが読書をしていた。それを確認してからガイは話し始めた。マリリアも普段と違う雰囲気を察知したのか、本を閉じてこちらを見ていた。


「マリリア様は王族籍を除籍され、ジュード様のみに仕えよと命じられました。その認識で間違いないでしょうか?」


「えぇそうです、父からはそう命じられました。」


「ジュード様のみに仕えると言う事は、他の男性に嫁す事ができません。それはつまり臣籍降嫁、ジュード様に嫁げと命じられたのではないでしょうか?」


「そう理解しています。ですから私は一生をジュードに捧げるつもりです。」


「ちょっと待て、そんな話はマルス王やマルグリットから聞いてないぞ。あぁそうか...それが彼らの狙いか。」


マリリアの除籍が臣籍降嫁を指すのだとすれば、仮にジュードがマリリアを突き放すと、マリリアは離縁されて出戻った女性として扱われる事になる。王女であれば本来はどこかの国の王子や有力貴族の嫡男に嫁げるものだが、出戻りとなると、歳の離れた貴族に後妻として嫁ぐか、正室ではなく側室として嫁ぐか、あるいは下級貴族に嫁ぐか、いずれにせよ見劣りする嫁ぎ先になる。そうだと知ればジュードは突き放さないとマルス王やマルグリットは考えたわけだ。


「俺は騎士爵家の三男坊でしかない、家を出れば平民と同じだ。」


「表向きはそうです、そうでなければマリリア様への罰とは見做されません。しかし陛下や王太后様の裏の思惑は、ジュード様との縁を繋ぐ事でしょう。それにジュード様は望みさえすれば貴族にも王にでさえもなれます。」


「マリリアはどう考えている。」


「今のままお側で...お願いします、どんな扱いでも構いません。私がお仕えしたいのはジュードだけです。」


「ジュード様、これまでのマリリア様の献身をどう感じておられましたか? 妙齢の女性が一人の男性にここまで尽くすのは義務感や責任感からではありません。きっかけは王命だとしても、マリリア様はジュード様といる事を強く望んでおられる。」


「まあ少しは察しているつもりだが...。それで、ガイはマリリアの為に何を望む?」


「今のマリリア様の立場は曖昧です。今の状況に疑問を持つ者は多いでしょう。願わくばマリリア様をお側におく覚悟を持ち、それをお示し頂きたい。周囲に対して婚約者だと明言して差し上げるのが最善だと考えます。」


ガイとマリリアは真っ直ぐにジュードを見つめた。

ジュードは暫し考えた後、分かった、と応えた。


「マリリア、ガイに言われてしまった後だが、俺と婚約してくれるか?」


「はい...はい...喜んでお受けします。」

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