第56話 ホドムの一族

かつてジークの元にはホドムと彼が率いる情報部隊がいた。彼らの調査・探索の活動範囲は非常に広く、加えて遠隔地へ素早く情報伝達する手段を持っていた。彼らはジョルジア王国ではなくジーク個人に従っていたが、ジークが魔神を追って行方不明となり、ホドム達はアルムヘイグのベントリー地域にある領地へと戻っていた。そのホドムにジョルジア王国からの手紙が届いたのはジュードが立てる様になった頃だった。


ホドムは直ぐにジョルジア王宮に現れ、ジュードとマルグリットが応対した。


「お久しぶりでございます、ジーク様。先代ホドムは既に鬼籍に入り、私が名と役割を受け継ぎました。」


「来てくれてありがとう。今はジークではなくジュードと名乗っている。また働いて欲しいのだが、頼めるだろうか?」


「私の一族がジュード様から受けたご恩は決して忘れません。以前と同様に何なりとお命じ下さい。」


ホドムの一族は子供と思えるほど小柄で、常に覆面で顔を隠している。小柄であるが故に物陰などに潜みやすく、また街にいる時は覆面さえ外せば子供の姿形なので警戒されにくい。覆面は顔を覚えさせない為の用心だった。ジュードの前にいるのはホドムだけだが、彼がいると言う事は、既に王都内に彼の配下が潜入しているだろう。


彼らに依頼したのはジョルジア王国内の貴族閥の動向調査だった。ジョルジアには宮廷を牛耳る法服貴族、大領地を持つ名門貴族、ジョルジア再興後に立身出世した新興貴族の3つの派閥があり、それらが水面下で権力闘争しながらも、微妙なバランスで共存していた。この3派閥が勢力を増す一方で王家の求心力は低下し、その事がジョルジアの政治体制に軋みを生じさせ、政策立案やその実行へも影響し始めていた。


加えてジュードが巻き込まれた決闘裁判と、それに続くマルグリットの苛烈な処罰、それによる影響も懸念材料だった。以前の王都騎士団に所属する騎士は、多かれ少なかれ騎士に叙任されるまでに有力貴族や大商人の後ろ盾を得る。そうでなければ騎士への推薦を得る為の賄賂を準備できず、また見栄えのする装備を揃える事ができなかった。しかしその事は騎士と後ろ盾の癒着を招き、不正や犯罪の温床となり易かった。その王国騎士団が殆ど壊滅状態となり、現在は貴族などの後ろ盾のない国軍兵が王都の守備に就いている。これまで甘い汁を吸っていた貴族や商人がどう動くか把握する必要があった。


「動くとすれば法服貴族かしら。結構な金額を騎士や騎士見習いにばら撒いていた様だけど。」


「お任せ下さい、数日のうちにご報告にあがります。」


ジョルジア王国における法服貴族とは行政機関の長で、王国政府から給与を支給される文官であり、領地を持たないが、長ともなれば貴族と同等の扱いを受けられる。軍務省の長は軍務卿、財務省の長は財務卿という敬称で呼ばれる。本来であれば世襲を認めない一代貴族の様な位置付けだが、縁故採用が多く、一族内で役職を独占するケースは少なくない。独占は不正の温床となり易いが、しかしどの役職も専門性が高く、ある程度は仕方ないとして見過ごされていた。


数日後、予告通りホドムが現れた。そのホドムからの報告をジュード、マルス王、マルグリット、そしてジュードに付いてきたマリリアの四人で聞いた。報告内容は主に王都騎士団に関する内容だった。

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