第52話 マルグリットとの再会
騎士団員達はどうにかジュードを止めようとするが、光の盾に阻まれて誰もジュードに触れる事が出来ない。そして近づいた者から斬り捨てられていく。闘技場の中は血の池と化していた。最初に闘技場に立っていたゾルド達はとっくに死んでいる。そうして多くの騎士団員が倒れ、残りの者達がジュードを遠巻きに囲むだけとなった時、ジュードは観客席へと向かった。ジュードにすれば不公平で理不尽な裁判に同意した観客達も敵だった。向かってくるジュードの姿に観客席にいた者達は恐怖した。
貴族の護衛と思しき何名かが顔を引き攣らせながらもジュードの前に立ち塞がり、震えながら剣を構える。ジュードはその剣ごと護衛を両断する。斬られた護衛が撒き散らす血が近くにいた観客達に降り注ぐ。血を浴びた者達は、声を出せず、逃げ出す事もできず、ただその場に座り込んでいた。マリリアの姿がジュードの視界に入った。ジュードは光の剣を彼女へ向けた。その直後に後方から声がした。
「ジーク、お待ち下さい...ジーク、お願い。あなたの事はミケから聞いています。」
久しぶりに転生前の名前で呼ばれ、ジュードは声の方を向いた。そこには近衛兵に守られながら歩く年老いた女性がいた。50年経とうとも見間違える筈はない。かつてジークだった頃に妃としたマルグリットだった。マルグリットはジュードの元まで近づき、膝をつき、神にでも祈る様な姿勢でジュードを見つめた。その瞳には涙が溢れていた。
「あぁ、ジーク。お会いしたかった。貴方がいなくなって、毎日が不安でした。」
気が付けば周囲の者達もマルグリットと同じ姿勢でジュードを見つめている。
「先ずはそのお体を癒しましょう。この場は私にお任せ下さい。」
「そうか、では頼む。」
そう言い終わるとジュードは意識を手放した。
ジュードが意識を取り戻すまでに10日かかった。目が覚めたのは王宮の中で、ジークの時に使っていた寝室だった。部屋の中にはマルグリットと医者が居て、ジュードが目を覚ましてホッとしたという顔つきだった。意識がない時から治療は開始されているが、立てる様になるまでに2ヶ月は必要だと言われた。
目が覚めてから毎日の様にマルグリットが会いに来る。彼女と会話する中で騎士団の地下牢にいた間に起きた事が少しずつ分かってきた。
ジュードが地下牢に入って直ぐ、ミケはハルザンド王国へ向かい、イェルシアに事情を話した。ジークが転生した事、ジークの転生体であるジュードが森で襲われた事、そのジュードが今は騎士団の地下牢にいる事、その話を聞いたイェルシアはマルグリットへ手紙を出し、それを受け取ったマルグリットが近衛騎士団を使って騎士団の動向を調べさせた。そして決闘裁判の事を知り、闘技場に駆けつけた。
「もう少し早く知る事が出来れば...本当にごめんなさい。騎士団などへの処罰に希望があればお伝え下さい。」
「いつもと同じだよ。正義を成した者には名誉と褒賞を、悪には罪に応じた罰を。あとは君に任せる。」
それからマルグリットが下した処罰は苛烈だった。ジュードへの拷問に加担した者は全て騎士号を剥奪のうえ財産没収、死傷した者達への弔慰金や見舞い金の支給はなし、騎士団長・副団長は一般兵に降格の上で国境警備に配置換えされた。ザイやフレデリカ達が行った犯罪は王都民に告示され、被害を受けたと申し出があった場合は国が補償した。ヨミナス伯爵家を含むジュード襲撃に加わった生徒の親達は降格処分とし、領地や資産の一部が没収された。各派閥の貴族からの抵抗は激しかったが、マルグリットは国軍の動員も辞さぬ覚悟で貴族の抵抗を抑え込み、実行した。
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