第51話 決闘裁判

ジョルジアには決闘裁判という制度がある。英雄王ジークが国を再興する前から残る制度だが、この制度が使われる事は稀で、あっても有力貴族間の領土問題などでの戦争回避の手段として使われるだけだった。意見の対立がある場合に両者で決闘し、勝った方の主張を正しいものとする、という野蛮な制度だった。ゾルドは、ジュードという青年が卑怯な手段でザイ達を騙し討ちした、という証拠のない主張を通す為にこの決闘裁判という制度を使う事にした。


闘技場の真ん中に引き出されたジュードの前には木剣が一本、牢屋からそのまま来ているので纏っているのは所々破れた服のみ。一方のゾルド側は、ゾルドを含めた完全武装の騎士団員が10名、フレデリカの親であるヨミナス伯爵の手勢がこれも完全武装した状態で10名、計20名だった。手には様々な武器を持っているが、いずれも真剣だった。ジュードを殺すつもりで来ているのは明らかだった。


ジュードは木剣を杖代わりにし、ヨロヨロとよろけながら周囲を確認した。立会人なのか見学者なのか分からないが、闘技場のジュードとゾルド達を囲む形で100名余りの騎士団員達が並び、その奥の観客席には上級貴族と思しき老人とその取り巻き、おそらくヨミナス伯爵と護衛、その他にも幾つかの集団がいた。ジュードが討ち取った者達の家族や友人だろう。マリリアと護衛も観客席にいた。


「この決闘に勝利した者の主張を正しいと認める。20名を討ち取ったと主張するなら、ここで勝利してみろ。」


ゾルドが大声で叫び、抜いた剣をジュードに向けた。周囲の騎士団員達が意義なしと応える。観客席の何人かもそれに続いた。それからもゾルドが何か叫び、周囲の者達が応えていたが、ジュードには聞き取れなかった。これが正当な裁判だと言うのか。なんとも理不尽は状況に、ジュードは怒るのではなく呆れた。ここに正義はない。そうジュードは判断した。


散々に騒いだ後、ゾルドの号令で完全武装の騎士団員とヨミナス伯爵の手勢がジュードに向かって走り出した。そうして何名かがジュードに斬り掛かろうとして剣を振り上げたところで、その何名かの体が腹部で真っ二つに分かれた。それに気が付かずにもう何名かが先頭をいく騎士団員の後ろから飛び出したが、その剣はジュードに届かず、何かに弾き返され、そして先頭の何名かと同様に斬られた。ゾルドは何が起きたか直ぐには理解できずにいた。争う様にジュードへ襲いかかった先頭の何名かが斬られたのは分かるが、何故そうなったのか理解できなかった。そんな事は起こり得ない。何の抵抗もできずにジュードは斬り倒される筈だった。


崩れ落ちた騎士団員の屍の向こうには、光の鎧を纏い、光の盾に守られ、そして光の剣を持つジュードの姿があった。ジュードの胸には紋章が光り輝いている。その姿は、本や歌劇を通じて幼少の頃より憧れた英雄王ジークの姿そのものだった。その姿を見た周囲の全ての人間が凍りついた。そして自分達が誰に挑もうとしていたのか、その愚かさを理解した。


「ま、待て...話をさせてくれ。」


ゾルドは咄嗟に叫んだが、ジュードは構わずに敵と見做した者達へ斬り掛かり、何名かを斬り倒した。ジュードを止めようとして、周囲を囲んでいた騎士団員達が一斉にジュードへと向かったが、その中の何名かが思わず短槍をジュードに向けて投げてしまった。その瞬間から100名の騎士団員達もジュードの敵になった。ジュードはふらつきながらも近づく敵を斬り続けた。

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