第50話 騎士団の尋問
王都に戻ったジュードはその足で騎士団へ行き、森で襲撃を受けた事を説明した。騎士団員はその場でジュードを拘束し、地下牢に押し込めた。騎士団員は同時に森の捜索を始め、ジュードが説明した場所で20名を超える死体を確認した。遺体確認の結果、高等学校生でヨミナス伯爵令嬢のフレデリカ、数名の下級貴族の高等学校生、騎士団の小隊長であるザイと10名以上の騎士団員、それと数名の冒険者が犠牲者だった。
その翌日から5日間、ジュードに対して尋問という名の厳しい拷問が加えられた。鞭で打たれ、爪を剥がされ、指を折られ、その間にも殴る蹴るの暴行が加えられる。ジュードの顔は腫れ、全身が血まみれ、所々骨折もしていた。しかし治療行為は行われない。腕や指先の感覚はなくなり、立っているのも難しい状態だった。
6日目にマリリアは護衛を連れて牢屋にいるジュードの前に現れた。痛々しいジュードの姿を見て一瞬怯んだ様子だったが、直ぐに表情を引き締め、ジュードの頬を引っ叩いた。
「あなたは私の友人であるフレデリカを殺害しました。その事を私は許しません。あなたは罰を与えられるべきです。」
マリリアはもう一度ジュードの頬を叩くと、暫くは檻の外からジュードへの拷問を見ていたが、気分が悪くなったのか、途中で出ていった。
尋問を担当したのは騎士団員はゾルドと言い、彼はフレデリカの許嫁で、ザイとは親友と呼べる間柄だった。その二人がジュードという青年に殺されたと認識し、それ故にジュードを許せなかった。尋問とは名ばかりの拷問を行ったのもゾルドの判断だった。だが同時に、ゾルドは疑問も感じていた。たった一人の青年がどうやって20名以上を殺害できたのか。研鑽を積んでいるザイや騎士団員達にどう勝ったのか。
ゾルドは同僚に殺害現場の再度の調査と、合わせて犠牲者の関係者への聞き込みを依頼した。その調査結果はゾルドを悩ませた。
青年一人が20名以上を殺害するには罠や奇襲しかない。しかし現場に罠などなく、奇襲の為に潜んだと思われる場所には騎士団員や冒険者の靴跡しかなかった。また、20名以上を斬るなら少なくとも3〜5本の剣が必要だが、それも見つからない。そもそも青年の剣に刃毀れは無く、ザイや騎士団員の剣に何かを斬った形跡あるだけだった。これでは青年が20名以上を殺害した証拠にならない。
関係者からの聞き込み結果はゾルドには受け入れ難い内容だった。フレデリカは頻繁にザイの部屋を訪れていた。隣の住人は二人の情事の声を幾度も聞いており、恋人同士だと認識していたと言う。またザイとその取り巻きである騎士団員の部屋からは、王都で時折発生している行方不明者の持ち物ではと疑われる品々が見つかっていた。ジュードに斬られた冒険者達の黒い噂も報告された。
「これではザイやフレデリカが悪者ではないか。」
ゾルドは深く悩んだ。いまさら青年の証言が正しかったとは言えない。ザイ達の悪事も、そのザイ達が青年一人に打ち取られた事実も、騎士団にとっては大スキャンダルとなる。青年が卑怯な手段でザイ達を騙し討ちした、その結論しかない。またフレデリカとザイの関係も秘匿しなければ、ゾルドの後ろ盾であるヨミナス伯爵に迷惑を掛けてしまう。しかし証拠もなく青年を殺せば自分の経歴に傷が付く。
ジュードが拷問を受け始めてから7日目、ジュードは鎖を外され、牢から出された。そして周囲を騎士団員に囲まれながら進んだ。誰も何も話さない。ジュードは片足を引き摺りながらヨロヨロと暗い通路を歩き続ける。そして明るい場所に出ると、そこは円形の闘技場だった。
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