第49話 森の中の襲撃者

ジュードが野獣を狩りに森へ入った時、遠くから女性の悲鳴が聞こえた。野獣に襲われているのか、あるいは盗賊や人攫いの類か、いずれにせよ尋常ならざる何かが起こっていると思えた。ジュードはすぐさま声のする方へと向かった。


声がした方向に進むとやや開けた場所に出て、そこに女性を後ろから羽交締めしている巨漢の男と、その女性に剣を向けている中肉中背の男がいた。男達の身なりは、盗賊や人攫いに類には見えない。革鎧を着込んではいるが、その真新しさや質の良さから、冒険者や狩人とも違う。貴族の子息が狩りにでも来たのだろうか。女性の方は見覚えがある。先日の試験結果の改竄の時に騒いでいたAクラスの生徒だった。


「女性の悲鳴が聞こえたのですが、何かありましたか?」


「この女の仲間か? 武器を捨てろ。」


中肉中背の男がジュードへ剣を向けて言った。状況が掴めぬが、勘違いがあるならそれを解く必要がありそうだった。自分は女性の悲鳴が聞こえたから来ただけだ...そう言ってからジュードは鞘に収めたままの剣を男達に向けて投げた。中肉中背の男は落ちた剣を蹴ってジュードから遠ざけた。武器を手放しても中肉中背の男はジュードに剣を向けたまま。すると女子生徒が大きな声で笑い始めた。笑い声は周囲の森からも聞こえ、20名ほどの男達が出て来てジュードをぐるりと囲んだ。男達は武器を構えていた。中には素材買取場で見かけた冒険者が何人か含まれていた。


「バカな男ね、簡単に騙されちゃって。貴族に逆らったらどうなるか思い知りながら死になさい。」


そう言うと女子生徒は自分を羽交締めにしていた巨漢の男の首に抱きつき、口付けをせがんだ。巨漢の男はそれに応えながら、二つの塊をジュードの方へと放り投げた。ジュードの前に転がったその塊は、ライナスとアルベドの首だった。その顔には切り傷や殴打の後がある。散々に痛ぶった後で首を刎ねたのは明らかだった。ジュードの全身の毛が一気に逆立つ。そのジュードの姿を見て周囲の男達が更に大きな声で笑う。


「先にお仲間を片付けといたわよ。」


「この二人は関係なかった筈だ。」


「あんたの知り合いってだけで既に重罪なのよ。」


そう言い終わると女子生徒は一歩前に出て、ジュードを指差し、男達に襲えと命じた。その瞬間、ジュードに向けて突き出されていた女子生徒の手首から先が宙を舞った。ジュードが光の剣で斬り飛ばしたのだが、その動作の素早さのために、誰も光の剣に気が付かなかった。僅かの間をおいて、手が切り飛ばされた事に気付いた数名を除く男達はジュードへ斬り掛かったが、光の壁に阻まれ、ジュードに近づく事が出来なかった。その頃になって手首から先が無くなった事に気付いた女子生徒が大きな悲鳴をあげた。


「きゃぁぁぁ...わっ、わっ、私の手がぁぁぁ...」


泣き叫ぶ女子生徒をよそに、ジュードは周囲の男達を光の剣で切り伏せていく。金属鎧も革鎧も光の剣には意味をなさない。鎧ごと斬られていった。何人かは反撃を試みたが、ジュードの速さには間に合わず、剣を振り上げた状態のまま両断された。そうして巨漢の男と、その男に抱えられた女子生徒だけが残った。その二人に向かってジュードはゆっくりと近づく。


「ちょっ、ちょっと待て...貴族を殺すのは重罪だぞ。今ならまだ許してやれる。」


血を多く失って朦朧としている女子生徒を抱えながら巨漢の男が言った。


「お前は何者だ。なぜライナスとアルベドを巻き込んだ。」


尚も近づきながらジュードが投げかけた問いに男は答えない。男はただ震え、引き攣った表情のまま、剣をジュードに向けていた。何かの情報を得るのは難しいと判断したジュードはその場を後にしかけたが、ジュードの背後から男が斬りかかってきたため、ジュードは振り返り、二人まとめて両断した。

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