第48話 試験結果の改竄

「今日はミケがいないわね。」


マリリアは授業の合間にジュードといる事が多くなった。この状況はまずい。ここAクラスは上級貴族家の子息が大半を占め、例外は平民のライナスと、騎士爵三男坊で平民と同じだと見做されているジュードだけ。上級貴族家の子女は王女であるマリリアとの親交を深めたいだろうが、マリリアはジュードにばかり話しかけている。ジュードは子女達の嫉妬の視線に晒される事になってしまった。


「ミケは学校には来ませんよ」、そう言ってもマリリアは気にしない。それならさっきの授業の話をしましょう、野獣狩りの話を聞かせて、と話題が変わるだけで、ジュードの側を離れなかった。他の生徒がやんわりと嗜めてもマリリアは相手にしない。そんな日が続く中でジュードの入学試験結果への疑惑が浮上した。


毎月末の試験でジュードの成績が極端に悪かった。それで、ジュードの入学試験で何かの不正があったのではないか、疑いのあるジュードをAクラスから外すべきだ、という話がAクラスの担任教師と生徒から出た。ジュードとしては他のクラスへ行っても良いのだが、マリリアが猛然と抗議した。入学試験での不正は憶測でしかない、ジュードがクラスを移るなら自分も移る、と言う。騒ぎが大きくなって来たところで1学年全体を管轄する学年主任に関係者が呼び出された。


呼び出されたのは担当教師、ジュード、マリリア、それとジュード外しに熱心だった生徒が2名。学年主任は机にジュードの入学試験とその後の月末試験の用紙を並べていた。一目見れば筆跡の違いは明らかだった。雑な改竄だった。学年主任はどちらがジュードの筆跡なのか確認したいと言うが、既に答えが分かっている様だった。


「ここに生徒が4人いるわ。次の月末試験を学年主任の前でやりましょう。今この場で。」


そうマリリアが言うと担当教師と生徒2名の顔から血の気が引いた。学年主任はそんな3名の様子を無視し、別の教師を呼んで試験用紙を準備させた。複数の教師が監視する中で4名は試験を受け、結果は直ぐに出た。点数は高い順にジュード、マリリア、後は生徒2名が横並び。まだ教えられていない範囲を含んでいたため、前世の記憶があるジュードが有利なのは当然として、マリリアも流石は最優秀者だった。


「さて、筆跡を調べましょうか。」


そう学年主任が言うと担当教師がガックリと膝をつき、ガクガクと震えながら、彼が企んでいた事を白状し始めた。やはり担当教師がジュードの答案用紙を別のものに差し替えていた。先程の試験結果でジュードの学力が証明され、筆跡を調べるまでもなく、入学試験時の不正の話は消えた。あとは月末試験の答案を誰が改竄したのかという問題だけが残る。担当教師に疑いの目が向けられるのは明らかだった。


担当教師は下級貴族の出身で、成績優秀であったので高等学校の教師に採用された。しかし高等学校で出世していく為には下級貴族の身分のままでは難しく、王族や上級貴族の後ろ盾が必要だった。そんな彼にとってAクラスを担当する事は出世への大きなチャンスだった。それにしても試験結果の改竄は、少し調べれば直ぐに露呈する稚拙な行いだった。高等学校の教師になった人物の企てとは思えない。


「どうせどこかの貴族家に唆されたんでしょ。」


マリリアが言うと担当教師は大きく首を横に振った。自分の単独犯行だと言う。まあ仮に貴族家が絡んでいたとしても言わないだろう。言ってしまえば自分の命が危うくなる。学年主任もマリリアもそれが分かっていて、深く追求しなかった。学年主任は既に学校長の許可を得ていて、担当教師にはその場で解雇が言い渡された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る